Movie Buffでいこう 

”マッドマックス”白黒版と『用心棒』

白黒映画の名作と呼ばれる、アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(1960) も、マーティン・スコセッシ監督の『レイジング・ブル』(1980) も最初から白黒映画ではなかった。

アルフレッド・ヒッチコックは、ロバート・ブロックの小説のどこに興味をひかれたのですか? という質問に対して、名著『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(晶文社) でこう答えている。

「ただ一ヶ所、シャワーを浴びていた女が突然惨殺されるというその唐突さだ。これだけで映画化に踏み切った。まったく強烈で、思いがけない、だしぬけの、すごいショックだからね」(『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』p279)

「あのシーンの撮影には七日間かかった。キャメラの位置も七十回変えた。たった四十五秒のシーンのためにね。出刃包丁で突き刺されたとたんに血が吹き出す、よくできた女の裸体の上半身をこしらえたものだったが、結局使わなかった。やっぱり生身の女の裸がいいと思い、ジャネット・リーのスタンドインに、若い娘を、ヌードモデルを、使った。このシャワーのシーンでは、ジャネット・リーの手と肩と顔だけがほんもので、あとはすべてスタンドインのモデルだ。もちろん、出刃包丁が肉に突き刺さるショットはない。すべてモンタージュでそういう印象をあたえた。女性の肉体のタブーの部分は一瞬も見えない。乳房を画面にださないようにするため、いくつかのショットをスローモーションで撮った。それらのスロー・ショットは、そのまま‥‥現像処理で速度を速めたりせずに‥‥使った。そのままモンタージュに組み込むと自然な(ノーマル) な速度の印象をあたえるからね」(同書p285)

その惨劇シーンで血をいたずらに残酷に見せたくないので、ヒッチコックは『サイコ』をモノクロにした。

画像: Psycho Trailer youtu.be

Psycho Trailer

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『レイジング・ブル』(1980) の場合、映画全編でドバドバ出る血飛沫の描き方が滑稽だった。基本にモノクロ画面に血は白い塊として描かれる。

カラー映画用に荒編集されたボクシングシーン(本作以降編集はセルマ・スクーンメイカー) のラッシュを観た、『ハズバンズ』(1970) 『こわれゆく女』(1974) のジョン・カサヴェテス監督が血の赤を観て「汚い」と言ったわけだ。

カサヴェテスの助言を得たスコセッシは、1970年代当時カラー映画の退色が問題になっていたこともあり、映画全編をモノクロ映画にした。普通ならドス黒く映る血を白くしたのは、スコセッシのセンスともいえる。これによって映画全体の「刺激」は薄まり、映画のレイティングが弱まりR15になった。

ジョージ・ミラー監督の『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(原題Mad Max: Fury Road) ブラック&クローム版を観た。おもしろいことに僕の「カラーの記憶」がきれいに消し去ってしまっている。

画像: (c)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED (c)2016 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

(c)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
(c)2016 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

どちらかというと、『七人の侍』(1954) 以降『赤ひげ』(1965) までのマルチカム(複数のキャメラから望遠レンズで被写体を追った) で撮った、『用心棒』(1961) のような、黒澤明の娯楽活劇を観終わった雰囲気に似ている。超ド級の満足感を味わったわけだ。シネマスコープの『用心棒』は、僕にとっての黒澤明によるベストフィルムだから、この譬えは間違っていない。

画像: Yojimbo re-dubbed with A Fistful of Dollars Score youtu.be

Yojimbo re-dubbed with A Fistful of Dollars Score

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実際に、ジョージ・ミラー監督は本作のためのインタビューで、影響を受けた黒澤明作品として、『七人の侍』と『用心棒』と『蜘蛛巣城』(1957) の3本を挙げている。

なるほど最初から、ブラック&クローム版をイメージして作ったとしか思えない。白黒映画の階調(グラデーション) がくっきりと見えて、その豊かな色彩感に驚くのである。

この白黒映画における階調は、幾多の映画作家たちが格闘してきた映画史そのもののようなものだ。

すごく有名な話では、黒澤明の『羅生門』(1950) の雨には、雨をさらに黒く見せようと墨汁が入っている。

反対にハレーションを起こす白には、時に発色が良いピンク色やイエロー色が使われた。あの有名なウィリアム・ワイラー監督の『ローマの休日』(1953) で、オードリー・ヘプバーンが着た白いドレスは実はピンク色だったし、またカール・テオ・ドライヤー監督の『ゲアトルーズ』(1964) では白さを際立たせるため、壁一面がイエロー色に塗られた。

映画『マッドマックス/怒りのデス・ロード』ブラック&クローム版の劇場公開は、2017年1月14日(土)。上映されている映画館で、このモノクロ画面の美しさを堪能してほしい。

画像: ブルーレイ『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』Can not touch me 2月8日リリース youtu.be

ブルーレイ『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』Can not touch me 2月8日リリース

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東京近郊では、シネマサンシャイン平和島やユナイテッド・シネマとしまえん&豊洲ではなんと、4DX上映でもある。また、立川シネマシティあたりの極上爆音上映だったら、ビンビンに興奮するだろう!

ワーナー・ホーム・ビデオから2017年2月8日(水) に3,990円でブルーレイ版(2枚組) がリリースされる。さらに同日、『マッドマックス』全作品を集めた〈ハイオク〉コレクション(8枚組) が9,990円でリリースされる。

サトウムツオ
映画伝道師、ムービーバフ。1990年代に『BRUTUS』や『POPEYE』の映画コラムを担当。著書に『007コンプリート・ガイド』『ゴジラ徹底研究』(マガジンハウス)など。

画像: ブルーレイ『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』Storm 2月8日リリース youtu.be

ブルーレイ『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』Storm 2月8日リリース

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画像: ブルーレイ『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』Escape 2月8日リリース youtu.be

ブルーレイ『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』Escape 2月8日リリース

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ジョージ・ミラー監督が語る
マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディションの魅力

画像: 『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』劇場予告 youtu.be

『マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション』劇場予告

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画像: 2017年2月8日(水)リリース『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の"幻"のモノクロバージョン <ブラック&クローム>エディション発売のブルーレイ

2017年2月8日(水)リリース『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の"幻"のモノクロバージョン <ブラック&クローム>エディション発売のブルーレイ

画像: 2017年2月8日(水)リリース マッドマックス <ハイオク>コレクション(8枚組)

2017年2月8日(水)リリース マッドマックス <ハイオク>コレクション(8枚組)

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