今週の「カレイド シアター」は、11/26から公開の「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」にインスパイアされて「●●のシンドラー」と呼ばれた人たちを描く映画の小特集と、12/1公開の新作「マダム・フローレンス 夢見るふたり」、そして11/23より公開の帰ってきたハリ・ポタシリーズ最新作「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」です。

『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』

 11/26~恵比寿ガーデンシネマで公開されるドキュメンタリー『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』は、「イギリスのシンドラー」と呼ばれたニコラス・ウィントンと、彼が始めて669人の子どもたちをナチスドイツから救いだしたキンダー・トランスポート運動について描く作品です。
 「○○のシンドラー」という呼び方はスピルバーグの映画「シンドラーのリスト」のヒット以降よく使われるようになりました。

 映画になったオスカー・シンドラーは、ドイツ人の実業家で、自分の経営するホーロー工場の従業員としてポーランド系ユダヤ人たちを使います。当時すでにナチスドイツによるユダヤ人の組織的大量虐殺(ホロコースト)が東欧のドイツ占領地では進んでいました。しかしシンドラーは、が1100人以上ものポーランド系ユダヤ人を自身が経営する軍需工場に必要な生産力だという名目で絶滅収容所送りを阻止し、その命を救うことになるのです。
 この事実から、ナチスドイツのホロコーストから結果的にユダヤ系の人々を救うことになる行為をした個人を「○○のシンドラー」と呼ぶようになりました。

 たとえば、リトアニアの外交官だった杉原千畝は、ホロコーストを避けポーランドからリトアニアに逃げてきたユダヤ人を中心とした避難民に、シベリア経由日本の通過ビザを発行して難民の脱出を助け「日本のシンドラー」または「東洋のシンドラー」と呼ばれています。
1992年、杉原夫人の著書がテレビドラマ化されたことで、杉原千畝という人物の存在とその行為が日本でも知られるようになりますが、この時にはまだ「日本のシンドラー」という呼び名は使われていませんでした。1994年に「シンドラーのリスト」があって、オスカー・シンドラーの行為が日本でも知られるようになり、日本にも同じような行為をした人物がいるということで、「日本のシンドラー」というようになったのです。そもそも、杉原千畝の名誉回復がなされたのは2000年のことであり、1990年代前半にはほとんど見向きもされていなかった隠れた人道的偉人だったわけですね。『杉原千畝 スギハラチウネ』として映画化されたのは2015年12月。今年の正月映画、だったわけです。

 映画のタイトルとして邦題に「シンドラー」をつけた作品がもう一本あります。南京駐在のシーメンス社中国支社長ジョン・ラーベが、日本軍に対して地元民や各国駐在員などを守ったという事実を描いた作品で『ジョン・ラーベ 南京のシンドラー』という映画です。原題は「ジョン・ラーベ」だけですし、原作は「ジョン・ラーベの日記」です。まぁ、宣伝的にはいいところを突いていますし、虐殺から一般人を救ったという点ではシンドラーや杉原、ニコラス・ウィントンと同じなので、間違いではないと思います。ただ、こう、何でも「シンドラー」と言えば良いというのは、ちょっとな、という気もしますね。もっと何から救ったのかをはっきりすればいいのにと思います。もっとも、こうやって『ナンキンのシンドラー』とつけても、正式な劇場公開は出来なかったという、日本国内事情があるのですが。ちなみに監督は『コロニア』のフローリアン・ガレンベルガーです。

 そして今回の『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』です。ウィントンは「イギリスのシンドラー」とも呼ばれています。
彼はイギリス人の証券会社ディーラーでした。1938年12月。29歳のウィントンは、プラハで難民支援をしている友達の誘いでチェコスロバキアを訪れます。
 当時すでに子どもたちをドイツから避難させる「キンダー・トランスポート」の活動は始まっていましたが、チェコではまだ始まっておらず、しかしナチスドイツの進攻とユダヤ人排斥運動の広まりははげしく、一刻の猶予も許されない事態でした。
 ウィントンは移住のための委員会をかってにつくり、各国の指導者に手紙を書き、大使館と交渉を始めますが、断られるばかり。唯一受け入れを認めたのはイギリスだけでした。しかし、その条件は厳しいもので、里親としての受け入れ先を決め、政府には一人に付き50ポンドの保証金を納めるというものでした。
 ウィントンたちは、子どもだけでも助けたいと押しかける人びとの写真入りの書類を作り、それを元に受け入れ先を探します。脱出ルートはプラハから列車でドイツを通りオランダへ。そこから船でロンドンへというものです。1939年3月14日に最初の一行が出発。39年8月2日までに669人の子どもたちが出発しました。次の列車は9月。今までで一番たくさんの子どもたちがその列車に乗りこむはずだったのです。しかし…。1939 年9月1日。ナチスはポーランドに侵攻、第二次世界大戦がはじまり、ウィントンの計画は挫折します。9月の列車に乗るはずだった子どもたちのほぼ全員がその後強制収容所などに送られ、命を落としてしまったのです。
 この出来事がウィントンを苦しめ、かれはこのキンダー・トランスポートについて一切、口を閉ざします。後に結婚した妻や子供たちにも話すことはありませんでした。そして1988年、妻のグレタが偶然屋根裏でウィントンのしまいこんだ資料を発見したことで、この事実が世の中に知られることになりました。

 ドキュメンタリーは、この事業でイギリスに渡り、助かった子どもたちへのインタビューと、当時を再現したドラマで構成されています。作りとしては、テレビドキュメンタリーっぽい、事実をもれなく描いて、証言を丁寧に集める、わかりやすさを大切にした作品になっています。作品として面白いかというと、ちょっとどうかなというものですが、なんといっても、その事実が圧倒的であることと、生き残ったことによってどれだけ素晴らしい人生が子どもたちに訪れ、その命を尊く思い輝かせた彼らがどんなに世の中の役に立つ行動をしたかを生々しく証明してくれるところに感動してしまいます。
ウィントンは2015年に106歳で亡くなりますが、この作品には彼の在りし日の姿が遺され、その人柄がしのばれます。偉人らしからぬ、陽気なおじいちゃん、の周りには、今では6000人に増えたキンダ―トランスポートで生かされた子供たちの子や孫がいます。

「シンドラーのリスト」の最後にも出てきましたが「一人の命を救うものは、全世界を救うのと同じである」というタルムードの言歯を、映像を持って示してくれたドキュメンタリーになりました。

『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』予告編

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では、次は最新作をご紹介する「カミング・スーン」のコーナーです。

まず一本目は

『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』

ハリポタシリーズが終わって早、5年。ハリポタ育ちのファンも20代後半、と言うことで再始動するハリポタシリーズ、と言ってもハリーは出ないし、時代は1920年代で、舞台はニューヨークという、スピンオフ的な一本です。
今回は映画のオリジナル作品として、原作者のJ・K・ローリングが脚本を担当、ハリポタシリーズに繋がっているけれど、全く新しいキャラクターと物語を作り出しています。

ハリポタシリーズの中で、ホグワーツ魔法学校の教科書として使われていたのが「幻の動物とその生息地」という本。今回の物語はその本の著者、魔法動物学者のニュート・スキャマンダーが主人公です。

1926年、世界を旅する船から降り立ったイギリス人青年ニュート・スキャマンダー。革のトランクに青いコート、そばかすと赤い髪の、シャイで礼儀ただしそうな彼は魔法使いです。ホグワーツで学んでいた時代から魔法動物の保護と研究、飼育をしているのですが、今は世界を巡って魔法動物の調査をし、絶滅しそうな魔法動物を保護したり、捕えられたものを救いだして野生に戻したりしています。
彼がニューヨークにやってきたのは、ある魔法動物をアメリカの原野に戻すため。実は彼の持っているトランクにはあらゆる魔法動物たちが入っているのです。

この時代、アメリカでは、イギリスと違い、魔法使いの存在が危険視され、排斥運動も起きているところです。魔法の存在も、ましてや魔法使いの存在も、イギリス以上に徹底的に隠され、痕跡を残す者は厳しく罰せられることになっていました。しかし、厳しく取り締まれば取り締まるほど、不満や怒りは押し込められ、闇払いの手にも負えない存在が生まれ、ニューヨークの街角に出没、不吉な傷跡を残しては、魔法界と人間界の緊張をイヤがおうにも高めています。

 そこにのほほんと魔法動物探しにやってきたニュート・スキャマンダーは、早速騒ぎに巻き込まれます。
 トランクから逃げ出した「きらきら好き」のニフラーを捕まえるために入った銀行で、たまたま隣り合わせたマグル、アメリカではノーマジと言うのですが、人間のジェイコブ・コワルスキーの前で魔法を使い、忘却の呪文をかけ損なってしまうのです。しかも魔法動物の入っているトランクとジェイコブのトランクを取り違え、魔法動物たちをニューヨークに、放ってしまうことになりました。

 彼らを捕まえようとしたニュート・スキャマンダーですが、逆に魔法局の捜査官闇払いを首になったばかりのアリソン・スドルにつかまり、魔法局につれて行かれてしまいます。そうこうしているうちに、闇の力は勢力を増し、ニュート・スキャマンダーは騒動の真ん中に巻き込まれることになるのですが…。

 ニュート・スキャマンダーを演ずるのはエディ・レッドメイン。アカデミー賞をとったばかりの英国美青年スターが、ハリポタに。時代をさかのぼってクラッシックな出で立ちに身を包んだハリポタ話というのもなかなかで、ちょっと大人の物語に新しいファンもつきそうです。

映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』予告編【HD】2016年11月23日公開

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つぎは

『マダム・ローレンス! 夢見るふたり』

万能選手のメリル・ストリープが、実在した、ものすごく音痴なプリマドンナを演じます。
 今回は事実に基づいた作品ですが、先日公開された「偉大なるマルグリッド」は同じ人物をモデルにしたフィクションです。事実はフィクションより奇なり、な物語です。

 マダム・フローレンスはニューヨークの大富豪。駆け落ちして勘当され貧しかった若いころはピアノ教師をしていたという音楽家、ではあります。しかし、なぜか、とてつもない、音痴。自分では音が外れていることにも気が付きません。ニューヨーク音楽界のパトロンのひとりとして、ヴェルディ・クラブという音楽サロンを持ち、様々な公演を企画、時々自分も出演してアリアなどを歌って幸せを感じています。
 そんなマダムとサロンをマネージングするのは、年下の『夫』、元俳優のシンクレア・ベイフィールド。駆け落ちに敗れ実家に戻り、両親の遺産を相続したマダムと事実婚の関係です。と、言うのも、マダムには最初の夫からうつされた病気があり、当時それは不治の業病だったのです。けれど、シンクレアはマダムを愛し、マダムのために彼女が望むことは何でも実現しようと、日々尽くしているのです。それがどんなに実現不可能と思われる、たとえば、マダムの独唱コンサートを開くことだって。それが、たとえ、あの、カーネギー・ホールであったとしても…。

 メリル・ストリープは、「今宵フィッツジェラルド劇場で」ではカントリー、「マンマ・ミア」「イントゥザウッズ」ではミュージカル、「幸せをつかむ歌」ではロックと、何でも歌いこなす歌唱力の持ち主。俳優になる前はオペラ歌手を目指していたそうで、もちろんクラッシックを歌わせてもなかなかのもの、のはずです。
 それが、絶対音感どころか、音感、絶対無し、のすばらしい音痴として歌う。これが、スゴイ。というか、ちゃんと歌えなければ、音痴を演じつつまるでちゃんと歌っているかのように演技するのは、とても無理なんだそうです。

 監督は『危険な関係』や『クイーン』のスティーブン・フリアーズ。いわば”鉄の意志”を持って突き進む女を描いて、女優たちからその力を120%引き出して見せる達人です。
そしてその隣では、いつも飛び切りの男たちが彼女をサポートしています。今回はシンクレア。演じているのは、元祖イギリス美青年俳優、キング・オブ・ロマコメのヒュー・グラント。

セクシーでハンサムで優しくて、ちょっといいかげんで、山師っぽいところもある男、です。この、いいところとやばいところのバランスが絶妙で、愛すべき浮気者、愛すべき詐欺師、でもマダムのことは本当に心の底から愛しているという感じをうまぁぁく出しています。さすが、キング(笑)。ここに、とてもおとなしく、ピアノはうまいけれどまだまだ人生経験が浅い、若い伴奏者コズメが加わり、最初は給料に魅かれ、最後はマダムへの愛と忠誠心でマダムの夢を支える、聖なる三角形が完成します。

音楽はもちろん、美術や衣装なども華麗で美しく、目を楽しませてくれる一本になっています。
マダムをモデルにしたフランス映画「偉大なるマルグリット」では、マルグリッドが歌うその理由として夫の愛を取り戻し感じたいがため,ということになっていましたが、本物の方がより切実な理由があったというところが、泣かせます。その切実さを、うまく、ユーモアにくるんで、泣かせに走らないよう、いい具合につくりこんだ『マダム・フローレンス 夢見るふたり』。さすがの出来だと思いました。

『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』予告編

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