11月25日公開の「シークレット・オブ・モンスター」は、アドルフ・ヒトラー総統を思わせるカリスマ性のある独裁者の幼少時代を描いた作品で、ヴェネチア映画祭でオリゾンティ部門の監督賞と初作品賞を受賞した。

『シークレット・オブ・モンスター』

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イギリス、ハンガリー、フランスの合作だが、監督のブラディ・コーベットは1988年にアリゾナで生まれたアメリカ人。その彼に話を聞くことができた。

ブラディ・コーベット監督

 1918年、第一次大戦後の国際関係を決めるヴェルサイユ条約締結の下準備のため、派遣されてきたアメリカの高官一家が、フランスの郊外の荘館を借りて住んでいる。父は仕事中心で、母は優しいが、環境になじめないのか、ぼんやりしていることが多い。
幼い息子プレスコットは学校には行かず、若いフランス女性にフランス語をならっている。
友達もできず、誰とも親しくならない。クリスマスを祝う村人に石を投げたりする乱暴なところもあり、神を否定する彼に両親も手を焼く。ラスト5分間で一気に独裁者となった青年の彼が描かれる。道の両側で彼を迎える人々の群れ、ナチ・ドイツを連想させずにはおかない赤いバナーに描かれた鉤十字風のロゴが印象的。
時折り、ストーリーとは無関係にドーム天井やエレベーターの描写が入り、異様な雰囲気を醸し出す。最後になったが、スコット・ウォーカーの聞くものを煽り立てるような不思議な音楽は忘れがたく、衝撃的な効果を与えていた。

ブラディ・コーベット監督インタビュー     聞き手 北島明弘

Q 7歳の時にオーディションを受け、その後LAに移って俳優となり、「サンダーバード」やTVシリーズ「24」などに出演されてますが、いつごろからカメラの後ろ側にいて演出したいと思われたのですか。そして、演出をしたいと思うようになった理由はなんですか。

A 子供の頃から監督になりたいと思っていました。とにかく映画が大好きだったんです。本も大好きでしたが、小説家になれる、なりたい、と感じたことはありませんでした。なぜだかわからないのですが、映画を作ることはできるんじゃないかと感じたんです。

Q ヴェルサイユ条約締結について書かれたマーガレット・マクミランの本を読んで強い印象をうけ、またジャン・ポール・サルトルの短編「一指導者の幼年時代」にもインスパイアされたとのことですが、これらの題材を得て、実際に映画を撮ろうと思われたきっかけは何ですか。

A インスピレーションを受けた作品は色々あるのですが、マーガレットの本を読んで、この時代に強い興味を持つようになりました。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間のこの時期について書かれた本を沢山読みました。初めは、ただただ「この時代を描いた作品を作りたい」と想っていました。そこから時間をかけて徐々に発想を膨らませていきました。何百もの本を読みました。フィクション、ノンフィクション、様々な確度からこの時代を描いた(分析した)本を読みあさりました。そして、何年もかけて、構想を創り上げて行きました。脚本を書き上げるのに約10年間かかりました。

Q 本作の脚本を10年前に書き始めたが、監督第一作としてはあまりに実験的で野心的過ぎると思って中断されたと聞いています。妻のモナ・ファストボルドに励まされて、再び脚本を書かれたそうですが、10年前の脚本と実際に撮影に使用された脚本との違う点はどんなところですか。

A 変わったところはありますが、大幅な違いはありません。10年前に1人で途中まで書き、5年前に妻と一緒に書き始め、二人で完成させました。そこからはほとんど変わっていません。台詞等細かい修正だけで、構成自体(チャプラー分け)は10年前から変わっていないんです。最終章のタイトルを「Argument」から「Bustard」に替えましたが、序章、3チャプター、そして最終章、という構成はそのままです。

ブラディ・コーベット監督

Q. チャプター1と2が大体40-45分くらいで、大人になったプレスコットが登場する最後のチャプターは数分という時間配分なので、観客は彼が独裁者となった過程がわからず、疑問にかられるのですが、題名通りに子供時代だけを描こうと初めから考えられていたのですか。

A 私は、基本的には、政治的な作品が作りたいと考えていました。主人公の少年はファシズムを生み出した20世紀初頭が抱えていた数多くの問題を象徴するシンボルのような存在です。彼を使って、こういったイデオロギーを生んだ時代を描きたいと思ったのです。なので、彼の青年時代を描く気は最初からありませんでした。もし、これが実在した人物を描いた伝記だったら、その人物の人生を最初から最後まで描いたでしょうが、これはフィクションです。彼はあくまでもシンボルなのです。政治に絡む前の、感情によってエゴが形成されてく姿を描きたかったのです。

Q アメリカの映画人が第一次大戦後のフランスにおけるアメリカ人官僚一家の話を撮るというのは、容易なことだったとは思えません。実際の映画製作はどういうに進んだのですか。ブダペストでロケ撮影されたそうですが、屋内シーンはどこのスタジオで撮られたのですか。またヨーロッパとアメリカの製作方法に違いはありますか。35ミリ・フィルムで撮ろうと思われた理由は。先日、YouTubeであなたのインタビューをいくつか見ましたが、デジタルもいいが、この映画は違うと言われたのはなぜですか。

A すべてハンガリーで撮影しました。(ヨーロッパとアメリカの製作方法に)違いはあると思いますが、それもシフトしていると思います。世界中で作られているほとんどの作品が、西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、アメリカ映画など、様々な文化の影響を受けています。個人的には、最も重要な映画文化を築いているのは、アメリカ、フランスを初めとする多くの西ヨーロッパの国々、そして日本だと思います。アートハウス映画の歴史を考えた時、これらの国では百年前から映画が作られていました。なので、映画文化が発展し、確立されているのです。もちろん、他にもフィリピンやメキシコのように素晴らしい映画を作っている地域もありますが、彼らの映画史はまだ浅いのです。メキシコ出身の映画監督たちは、今もっとも素晴らしい作品を撮っていると思いますが、歴史が浅いので、国が映画産業をサポートし、挑戦的なアイデアが生まれているのです。

 デジタル・シネマは本当に大嫌いです。まったく美しいと思いませんし、映画の“死”だといっても過言でないと思います。ヴェネチア映画祭で沢山の作品を観ましたが、全てDCP上映でした。
30本観た中で、フィルムで撮影されたのは2本だけでした。私たちは一日中iPhoneやパソコンの画面を見て生活しています。0と1だけの世界です。それなのに、わざわざ映画館に行って巨大なパソコン画面で映画を見るなんて、本当につまらないと感じてしまうんです。デジタルで撮影された素晴らしい映画もありますが、画だけでいうと、映画らしさが欠けていると思います。
 90年代のビデオ作品はとても興味深くて大好きでした。ドグマ90が製作した映画の数々は、とても美しかったです。ピクセルが大きくて、独特の味がありました。でもHigh Definitionはフィルムのまねをしているようで、全く美しいと思いません。また、良くフィルムの方がお金がかかる、と言われますが、必ずしもそうとは言えません。
 カメラやフィルムは使う人が少ないので、値段交渉がし易いですし、デジタル程カラー調整に時間をかける必要がありません。カラー調整のスタジオ代はとても高いんです。フィルムであれば数日で終わりますが、デジタルの場合はフィルムのように奥行きを出すために何週間もかかることもあります。
 不思議なのが、いつの間にか業界を上げてデジタルをサポートしよう、という雰囲気が出来上がっていたことです。50%ずつならまだしも、もはやデジタル撮影の作品が全体の98%を締めてしまっています。その98%のうち、おそらく映像を観て美しいと感じられるのは3%くらいでしょう。
他はまるで昼ドラみたいです。個人的には、今が映画史上、最悪の時代だと思います。配給方法も変わっていますし、ずっとこのままだとは思いませんが。そして、そのうち、映画館に人を呼ぶためには、フィルムを使わなければいけないと気がつくと思います。私が間違っているかも知れませんが、人々があの陰影のあるフィルムの映像を恋しがることを願っています。わたしもパソコンで映画を観ますし、パソコンで素晴らしい映画を発見することもありますが、水彩画と油絵があるように、映画にもオプションが必要だと思います。

ブラディ・コーベット監督

Q アメリカ生まれの少年が言葉も習慣も違う異郷に連れてこられて、孤独な日々を過ごしたこと、両親の愛を十分に得られなかったことなどが、長じて独裁者になる種子となったのでしょうか。母にディナーの席で、祈るように言われて、「もう神を信じてない」と言って席を立ちますが、信仰心をなくしたことも影響しているのでしょうか。YouTubeで見たインタビューの中で、”歴史は繰り返す”と語っておられましたが、現在の状況は第一次大戦後の世界情勢と似ていなくもないように思われます。独裁者がうまれる可能性はあると思いますか。

A 誰もがそうだと思いますが、彼の人格を形成したのは、彼が生まれ持った本質と時代背景や育った環境等、その両方だと思います。最後に彼が神を拒絶するシーンですが、あそこで彼は自分と神が共存するにはスペースが足りない、と気がつくのです。
 独裁者が生まれる可能性については、私たちはいつの時代もこういう奴らとつき合って行かなければいけないのだと思います。奴らはいつの時代も存在するのです。なので、私たちはもっと自分自身を教育しなければいけないと思います。インターネット上にどうでもいい情報も沢山ありますが、自分が子供の頃と比較すると、より多くの情報にアクセスできるようになりました。教育によって人類が成長し、暴君(独裁者)たちが存在しづらい世界が訪れると信じていますが、それには長い年月がかかるでしょう。ユートピアのような世界が急に生まれるということはないのです。私たちは暴君を相手にしてはいけないのです。メディアもそうです。トランプを新聞の1面に載せるのはいい加減やめるべきです。彼の思うつぼです。(注・このインタビューは大統領選前に行われた。大統領に当選した今では1面に載せないわけにはいかないだろう)

『シークレット・オブ・モンスター』

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Q スコット・ウォーカーの音楽がとても印象的でした。ドラム、ホーン、弦楽器がこまかなリズムを刻み、観客の腹に響くような重低音がすごい。観客は不安に駆られ、緊張をずっと強いられる—-?そんな感じでした。ウォーカーを起用した理由はなんですか。彼は完成したフィルムを見て作曲したのですか。

A この作品を作るにあたり、彼の音楽にとても影響を受けたと伝えました。彼は似た題材を扱うアルバムをたくさん発表しています。なので、興味があるかも、と思ったのです。具体的には、スコットに「5分の序曲を書いて欲しい」と具体的にお願いしました。どういった映像になるかを説明し、沢山楽器を使って壮大な音楽にして欲しい、と伝えました。そして、「好きにやってくれ!」と言いました。彼はその通りにやってくれました(笑)。彼にはとてもシンプルな指示を出しました。例えば、「ここは不安な気持ちになる音楽が欲しい」「ここはロマンチックな音楽にしたい」「差し迫った雰囲気が出したい」など。彼は本当に頭が切れ、才能があるので、細かく説明する必要はないんです。それに、彼は私がどれだけ彼の音楽のファンで、彼のことを信頼しているかわかっていました。なので、メールやりとりで、時々電話はなしたくらいです。

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Q 主人公プレスコットに9歳のトム・スウィートを起用した理由は。ロンドンでサッカーをしていた彼をスカウトしたとのことですが。女の子のような髪、古めかしい服装をさせられて、彼は嫌がりませんでしたか。演技指導はどのようになされたのですか。プレスコットのキャラクターを説明して、演技を引き出したのですか。彼はその後も映画に出ている様ですが、あなたが映画界に引っ張ったことになり、彼の将来に多大な影響を与えたことになります。この映画がのちに”俳優の幼年時代”となるかもしれませんね。また両親役にベレニス・ベジョ、リアム・カニンガムを起用した理由は。

A トムはまったく嫌がりませんでした。出会ったときの彼はまさに完璧な年齢だったと思います。なぜなら、彼はまだ女の子に興味を示したり、自分の男らしさを意識しはじめる前だったからです。もちろん人によって違いますが、大体の子供が性を意識し始めるのは10代に入ってからです。たくさんの子供に会いましたが、トムに会った時、彼がまだ幼い子どもだと感じ取りました。もし今会っていたら、きっと同じ映画を作ることはできなかったでしょう。彼はまだ周りの人にどう思われるかを意識していなかったのです。
 ベレニスの作品は、アスガー・ファルディ監督の「ある過去の行方」をはじめ沢山観ていて、素晴らしい女優だと思っていました。母親役を演じるには、37〜48歳で英語も仏語も話せるバイリンガルである必要があったので、対象となる女優は5〜6人しかいませんでした。更に私の頭の中で役のイメージがあったので、それに合い、かつ演技力がある女優となると自然と絞られてきました。
 リアムに関しては、ケン・ローチ監督やスティーヴン・マックイーン監督の作品を観ていました。父親役にはアイルランド系のカトリック系の俳優を探していました。その独特な語調を持つ俳優を探していたのです。リアムは彼の独特な話し方があの時代にピッタリだと思いました。

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Q 途中でドームのガラス屋根やエレベーターの映像が映ります。これは何かの象徴なのでしょうか。エレベーターのシーンでは「シャイニング」を連想し、いまにもドアがあいて赤い血の奔流が押し寄せてくるのではと思いましたが。

A 私の個人的な理由(テイスト)で盛り込んだシーンがいくつかありますが、これらのシーンが本作を私らしいユニークなものにしてくれていると思います。このシーンに関して、私なりの解釈や理解はありますが、観客がそれぞれ独自の解釈をしてもらえればと思います。

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Q 影響を受けた映画人はだれですか。フリッツ・ラング、F・W・ムルナウ、ジャン・ヴィゴらの名前を挙げられていましたが。またミヒャエル・ハネケ、ラース・フォン・トリアーについて、彼らは“勇敢”だと語っていますが、その理由は。

A ミヒャエルとラースは世界で最高の映画監督の二人だと思います。私はカール・ドライヤー、ルベール・ブレッソン、ジャン・ヴィゴ、小津安二郎の作品も大好きです。彼らの作品は自分の中ですんなり理解出来るんです。本作に関して、一人の特定の監督に影響を受けた、と言うことはありませんが、ラースやミヒャエルと比較されたり、共通点があると言われるのは100%理解できます。

『シークレット・オブ・モンスター』

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Q 次回作は決まっているのですか。また俳優は続けるのですか。

A 次回作では13、14歳の少女がトップスターに成り上がってゆく様を描いています。「シークレット・オブ・モンスター」と似た要素も多く含まれていると思いますが、時代設定は1999年から現代までです。来春撮影に入る予定です。カメラの前に立つより、カメラの後ろにいる方が好きですね。というのも、映画製作のすべての工程が好きだからです。脚本を書く静かな時間や編集、そのすべてが好きなのです。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

映画『シークレット・オブ・モンスター』日本版予告

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ストーリー

1918年。ヴェルサイユ条約締結を目的にフランスに送り込まれた米政府高官。
彼には、神への深い信仰心をもつ妻と、まるで少女のように美しい息子がいた。しかし、その少年は終始何かに不満を抱え、教会への投石や部屋での籠城など、その不可解な言動の数々に両親は頭を悩ます日々。その周囲の心配をよそに、彼の性格は次第に恐ろしいほど歪み始める―。
そして、ようやくヴェルサイユ条約の調印を終えたある夜、ついに彼の中の怪物がうめき声を上げる―。20世紀が生んだ最悪の怪物=”独裁者”生誕の謎に迫る至高の心理ミステリー。

【監督】
 ブラディ・コーベット
【出演】
 ベレニス・ベジョ「アーティスト」「ある過去の行方」
 ステイシー・マーティン「ニンフォマニアック」
 ロバート・パティンソン「トワイライト」シリーズ
 リアム・カニンガム「ゲーム・オブ・スローンズ」
 トム・スウィート

提供:日活、REGENTS 
配給・宣伝:REGENTS

2016年11月25日 TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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