みなさん初めまして、私、映画監督の井上雅貴と申します。
映画監督としてはまだ1本しか撮ったことがなく、駆け出しの監督でございます。

11月12(土)~ユーロスペースにて私が初監督した映画『レミニセンティア』が公開されました。この映画、日本人監督がロシアに渡り自主制作で作ったロシアSF映画ということで話題を集めております。

画像: ロシアで撮った映画で話題!『レミニセンティア』井上雅貴監督特別寄稿「ロシアで撮った理由とソクーロフ監督に学んだ芸術に対する心」前編

今回はなぜ、私がロシアで映画撮影に至ったのか、その動機をお話ししたいと思います。
私はもともと、映画のメイキング監督としてさまざな映画のスタッフとして、仕事をしておりました。その流れで10数年前、ロシアの巨匠 アレクサンドル・ソクーロフ監督の映画「太陽」という作品のメイキング監督のお話しが来ました。

もともと私はロシアの映画が好きでタルコフスキーやニキータ・ミハルコフ、もちろんアレクサンドル・ソクーロフ監督の作品を映画館で観ていました。特にソクーロフ監督はロシア映画の中でもビジュアル的に変わった映画を撮る方で、どのように撮影しているのか興味もあり大好きでした。そんなソクーロフ監督の映画に関われるなんて夢のようで、すぐにその話を引き受けました。

「太陽」という映画は昭和天皇を描いた映画で、昭和天皇をイッセー尾形さん、皇后陛下を桃井かおりさんが演じていました。日本が舞台の映画なので都内の撮影所にセットを組んで撮影すると思っていたら、なんと、ロシアのサンクトペテルブルグにあるレンフィルム撮影所で撮影することになっていました。私はロシアに渡り、3ヶ月滞在することになりました。ロシアでの撮影は驚きの連続です。芝居をつけて、カメラ、録音を用意し、照明を当てて、演技を撮る。基本的な流れは同じですが、基本的な人の考え方が違いました。

ロシアでは社会主義の名残だと思いますが、年功序列や社会的地位に従うことがなく、人は基本的に平等であるとういう考え方があるように思えます。立場は違うけど私たちは同じ人間だ。という感じです。なのでみんな堂々としています。アシスタントであろうが、ケイタリング(食事)であろうが、はたまた掃除のおばちゃんであろうが、監督に自分の意見を言うこともあります。部署が違っても、別の部署の意見を言います。スチールのカメラマンが美術の間違いを指摘したり、照明が衣装の意見を言ったりします。日本ではありえません。日本ではお互いに気を使い、意見を言いたくても言えない状況が多々あります。ロシアでは自分の意見は誰であろうと堂々と発言します。何よりソクーロフ監督の作品なのだからと、より良い作品にするためにみんなで意見を言うのです。みんなで映画を作っているんだと言う感覚が強いです。もちろんいろいろ言うので、監督は怒ったりもしますが、言われないよりましだと私は思います。監督の才能だけで映画を作り上げるのは限界があります。みんなが自由に意見を言えればより良い意見を採用するだけで良いのです。

ロシア人の芸術に対する尊敬の念が強いことも、驚きました。

スタッフに普段はどういう仕事をしてるの?と聞いたところ、ベビーシッターと答えが返って来ました。他にも普通に会社員の人もいました。ソクーロフ監督の仕事をするために休みを取って参加しているのです。もちろん全員ではありませんがそういうスタッフがいるのに驚きました。
ロシアの巨匠の作品なので、ロシア映画界での百戦錬磨のようなスタッフが集まっていると思っていました。理由を聞くと、ソクーロフ監督の仕事をすると、もう他の作品はできないといっていました。すなわち芸術映画から商業映画にはもう戻れない。映画を仕事としてはできないのだというのです。
一般の人も同じです。普段、何をやっているの?と聞くと、日本だと仕事の話をしますが、ロシアだと趣味の話をする人が多いことにも驚きました。絵を描いたり、音楽をしたり、ダンスをしたりと表現の話をします。要するに仕事=労働であり、私たちは労働のために生きているのではないということです。これも社会主義の名残ではないかと思います。

ソクーロフ監督の現場で一番学んだこと。それは技術的な面や映画制作の違いではなくロシア人の芸術に対する心です。

このような芸術に対する心を目の当たりにすると、この国で映画を撮ってみたいと思うようになりました。
それから数年、私はどうすればロシアでハイクオリティの映画が撮れるのか考えました。
しかも、他の資本を入れず自由な表現をする。それが第一条件です。少人数体制で撮られた数々の名作を何本も研究し、数年後、私にも撮れると確信しました。あとは覚悟を決めるだけとなりました。
ここまでが私がロシアで撮影しようとした動機です。実際ロシアでの撮影はどうだったのか?
それは、次の記事でお伝えします。

映画「レミニセンティア」
監督 井上雅貴

画像: 映画『レミニセンティア』予告編 - YouTube youtu.be

映画『レミニセンティア』予告編 - YouTube

youtu.be

日本人監督が作り上げたロシアSF感動作『レミニセンティア』予告編。ハリウッドと日本で長編作品賞を受賞。記憶を消す特殊な能力を持つ小説家の父が娘との無くした思い出をたどる物語。記憶をテーマに、哲学的でありながらもSFヒューマンドラマというエンターテイメント作品。 美しい映像と様々な仕掛けの物語があなたの脳を刺激する。

渋谷ユーロスペースで絶賛上映中!

2016.11.12(SAT)〜11.18(FRI) 10:00~/ 21:00
2016.11.19(SAT)〜11.25(FRI) 21:00~

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