今週の「カレイド シアター」は、11月3日に閉幕した第29回東京国際映画祭の受賞結果報告と、「ブルーに生まれついて」「マイルス・デイヴィス空白の5年間」というジャズミュージシャンの伝記について二本ご紹介します。

さて。11月3日、第29回東京国際映画祭が無事閉幕しました。

最高賞である東京グランプリと、WOWOWのユーザー代表審査員が選ぶWOWOW賞をダブル受賞したのは、ドイツの作品「ブルーム・オヴ・イエスタディ」。
2007年に日本でもヒットした「四分間のピアニスト」の監督クリス・クラウスさんの新作です。
監督は、「彼女がいなかったらこの作品は出来なかった」と言ってプロデューサーと一緒に記者会見に現れました。監督が背の高い人なので、彼の肩くらいまでしかない女性プロデューサーとは凸凹コンビのようで微笑ましかったです。
「ブルーム・オブ・イエスタディ」は、ナチズムの加害者・被害者それぞれの孫が出会い、許し合う姿をコメディと恋愛を交えて描いたドイツ=オーストリア合作映画。「まず私自身の家族の歴史を調べることから始め、ヨーロッパ中でホロコーストの記録文書を探し歩きました。そのなかで、被害者・加害者の孫世代は、楽しそうに一緒に過ごしていることに気が付きました。また、ユダヤ人の孫世代が、過去を冗談交じりに話しているのを見て、『私たちはある種の軽さをもたせてテーマを扱ったほうが良いかも』と思ったんですね」と監督。「テーマは和解に対する希望です。その象徴が子どもなんです。長い苦しみの旅路の果てには小さな希望がある。私のロマンチックなところがここに出てしまったんですね(笑)」と打ち明けまていました。

観客賞と最優秀男優賞の2冠を獲得したのはフィリピン映画「ダイ・ビューティフル」。急死してしまったトランスジェンダーの美人コンテスト女王。彼女は、何日も続く葬儀の間、毎日違うセレブの恰好でともらってほしいと言い残していて…というストーリーで、主役の女装美女を演じたパオロ・バレステロスさんは、受賞の報を受け急きょフィリピンから再来日。夜12時に日本に着いて朝7時からメイクに取り掛かったそうで、見事にジュリア・ロバーツに変身して現れました。パオロさんはフィリピンでは超有名なタレントさんで、セレブのなりきりそっくりメイクで人気なのですが、何と、ヘア・メイクはいつも自分でするそうです。「初主演作が東京でワールドプレミア上映され、私が最優秀男優賞。とても驚くとともに感激しています。でも女優賞を獲っていたら、とてもめずらしかったのにね」と笑っていました。とてもあでやかで、主演女優賞でもよかったかも、と思わせてくれました。

こちらは本当の女性による最優秀女優賞&審査員特別賞には、スウェーデン=デンマーク=ノルウェー合作映画「サーミ・ブラッド」。1930年代、少数民族のサーミ人の姉妹がスウェーデンによる同化政策に翻弄されていく姿を描く作品です。
アマンダ・ケンネル監督と主演のレーネ=セシリア・スパルロクは二人ともサーミ人の血を引いています。「この作品はサーミ語で描かれた初めての映画です。サーミ人の歴史や文化がこうやって表立って語られるということが大切だと思うのです」と監督。二人ともシンプルな黒のドレスの胸に銀の大きなサーミのブローチを付けていてすてきでした。
最優秀監督賞はクロアチア=デンマーク合作映画「私に構わないで」のハナ・ユシッチ監督。だめだめな家族の犠牲になっていると感じている娘の物語です。最優秀芸術貢献賞は中国映画「ミスター・ノー・プロブレム」のメイ・フォン監督に。原作は著名な小説家・劇作家の老舎。脚本家として有名なメイ・フォンがモノクロで取り上げた監督デビュー作です。

日本映画スプラッシュ部門作品賞は、渡辺紘文監督作「プールサイドマン」。製作費は食費のみという超低予算で撮影された作品で、兄弟で作るというスタイルの渡辺監督は「今まで作ってきた作品も低予算の自主映画ですが、作り続けてきて、自分のなかでは“つくりかた”が出来てきたと思っています。いわゆるきちんとした映画をつくらなければとも思っていますが、それでも今のスタイルを捨てることは考えていません。しかし課題でもあるとは思っています」ときっぱり。なかなか頼もしい感じです。
 アジアの未来部門からは二つの賞が授与されました。フィリピン・カタール合作映画「バードショット」に「アジアの未来部門・作品賞」監督はミカイル・レッドさん。特別賞はインド映画「ブルカの中の口紅」のアランクリター・シュリーワースタウ監督に。ふたりともこれからが楽しみです。

東京国際映画祭が終わると、次は東京FilMex。また結果はあらためてご紹介しますね。

今週・来月と、有名なジャズ・ミュージシャン二人の、フィクショナルな伝記映画が二作続けて公開されます。今週はこの二作をあわせてご紹介しましょう。
11/26公開のチャット・ベイカーの伝記映画「ブルーに生まれついて」と、12/23から公開のマイルス・デイビスの伝記映画「マイルスデイビス空白の5年間」です。

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 レジェンド、と言っていいトランペッターにして作曲家であるマイルス・デイビス。白人ジャズ・トランペッターであり歌も歌ったチャット・ベイカー。マイルスは1926年、チャットは1929年の生まれで、三歳しか違いませんが、ジャズの世界ではマイルスが大先輩。ふたりともチャーリー・パーカーとの出会いがミュージシャンとしての出発になっていますが、18歳で共演し19歳でバンドにむかえられたマイルスにたいして、23歳でオーディションに呼ばれたチャットでは比べ物にはなりません。映画にも描かれていますが、25歳でニューヨークデビューしたチャットはマイルスとの共演にとてつもなく緊張し、マイルスにはほとんど相手にされず落ち込みます。当時、白人のイケメンで甘い歌声でも人気のあったチャットは、マイルスたち東海岸のブラック・ジャズ・ミュージシャンにとっては目の敵みたいな存在だっただろうと想像できます。
 
ジャズと言う音楽のジャンルはブラック・ミュージックにルーツを持っています。しかし、まだ差別の強い1940から50年代、ジャズは白人のミュージシャンやコンダクターが率いるビッグ・バンドが一番人気でした。スタンダード・ジャズの名曲と言われる作品はこのビック・バンドによって誕生した物が多いですよね。映画でも、「グレン・ミラー物語」とか「ベニー・グッドマン物語」など、ハリウッド・スターが主演した伝記映画がヒットしました。
 しかし、その間にもジャズは進化を続け、モダンとか、フリーとか、革新的なミュージシャンが作り出す新しいサウンドがジャズを牽引していきます。その指導者がチャーリー・パーカーであり、さらなる進化を何回も引き起こしたのがマイルス・デイビスだったのです。

『MILESAHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』予告編

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 パーカー、マイルス、チャット。この三人には共通点があります。というか、ミュージシャン物にはおきまりの展開、のような気がしますが、酒とドラッグにおぼれながらすばらしい音楽を生み出していくところです。インスピレーションをもとめ、天から降りてきた音楽を自分の物にするにはハイになっている必要があるかのようです。けれど、それは体をむしばみ、周囲の人を傷つけ、自分自身も心身ともにぼろぼろになっていきます。
 酒やドラッグの酔いやトリップがあっての芸術だ、というつもりはありませんが、クリエイトのつらさと自分の才能が枯れてしまうのではないかという不安も彼らを酒やドラッグに駆り立てたのでしょう。
 二本の伝記映画は監督によってかなり演出が加えられていますが、酒やドラッグのハイなところより、その不安を紛らわす効用のほうが描かれていました。そしてどちらも創造の源として描かれているのが、ミューズの存在です。たいてい、アーティストの伝記だとその周りには複数の女性がいるのですが、その誰を一番のミューズとするか、それはどの時期を主人公の最盛期とするかという問題と関わってきます。
フィクションとして作る場合は、何人かの女性像をまとめて一人のミューズに作り上げることもあり、チャットの映画「ブルーに生まれついて」はそのアプローチをとっています。ドラッグ取引のいざこざでギャングに殴られ歯を失ったチャットを酒とドラッグから引き離し、復活させようと、献身的に、時に厳しく、時に優しくチャットを支えるジェーンという存在です。

『ブルーに生まれついて』予告

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一方、「マイルス・デイヴィス 空白の5年間」では、かつてマイルスが結婚していたけれど、離婚されてしまった女性がミューズです。彼女を失うことでマイルスは落ち込み、その音楽的な頂点から転がり落ちます。けれど、彼女がなぜ自分を捨てたのかを見つめ直せたとき、復活のチャンスがやってきて、また新しい音楽的頂点へと向かっていくことになるのです。
わりと時系列に従って語られる「ブルーに生まれついて」と比べるとマイルスの回想がはさまれ、時系列がバラバラに編集されている「空白の5年間」は物語を追うのがちょっと難しいかもしれません。けれど、その即興的というか唐突なつなげ方は、もしかしたらフリージャスを意識したものかもしれません。面白い試みだと思いました。


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