2016年東京国際映画祭コンペティション部門受賞作が決定した。
『ブルーム・オヴ・イエスタディ』クリス・クラウス監督作品は東京グランプリとWOWOWとW受賞!
また、審査員特別賞の『サーミ・ブラッド』も主演女優賞と合わせて、観客賞の『ダイ・ビューティフル』も主演男優賞と合わせそれぞれW受賞となっている。
東京グランプリ 『ブルーム・オブ・イエスタディ』
審査員特別賞 『サーミ・ブラッド』
最優秀監督賞 ハナ・ユシッチ監督『私に構わないで』
最優秀女優賞 レーネ=セシリア・スパルロク『サーミ・ブラッド』
最優秀男優賞 パオロ・バレステロス『ダイ・ビューティフル』
最優秀芸術貢献賞 『ミスター・ノー・プロブレム』
観客賞 『ダイ・ビューティフル』
WOWOW 賞 『ブルーム・オヴ・イエスタディ』
総評
審査委員長 ジャン=ジャック・ベネックス監督
「作り手のビジョン、スピード感のあるグローバリズムなど、さまざまな視点を見ることができました。映画の作り手は時代の証人でもありキャストでもあると思います。映画を見て、観客は世界をより広く知ることが出来ます。この16 作品をみていて、普遍性ではなく、人種差別、寂しさ、フェシズム平等性、正義感など、互いに違いがあるということを見せ付けられました。人間性の最大の遺産は “違う”ということです。文化の違い、考え方の違い、そして人間性の美しさを見出しながらお互いに寛容な気持ちでお互いを尊重しながらそこで初めて希望がうまれ平和な世界が生まれるのではないでしょうか。」
東京グランプリ『ブルーム・オヴ・イエスタディ』監督:クリス・クラウス
日本を含め世界でヒットを記録した『4分間のピアニスト』(06)にて、獄中の天才ピアニスト少女と戦中の辛い記憶を抱える老女の交流を描いたC・クラウス監督は、今回もホロコーストというヘヴィーな題材を、ユーモアや恋愛を交えて鮮やかに語ってみせる。凄惨な歴史の記憶を継承する重要性と、人間味溢れるラブ・ストーリーとを両立させる巧みさに、職人技が伺える。主演のラース・アイディンガーは、舞台俳優として活躍する一方、いまや国境を越えて活躍する欧州映画に欠かせない存在である。共演のアデル・ハネルは現在のフランスきっての売れっ子であり、ダルデンヌ兄弟監督新作でヒロインを演じて今年のカンヌ映画祭の話題をさらった。
監督 クリス・クラウス
1963年ドイツ・ゲッティンゲン生まれ。近年のドイツ映画界最大級のヒット作『4分間のピアニスト』(06)を監督。同作は60を超える国際映画祭で賞に輝き、40か国以上で公開された。その他の長編監督作“Shattered Glass”(02)や“The Poll Diaries”(11)も批評家から高い評価を受けた。現在、ベルリン在住。
審査委員長 ジャン=ジャック・ベネックス監督 講評
「人間は罪を犯します。それは人間の性なのかもしれません。一人ひとりがそれを背負って生きています。そして映画はその時の悲 劇の瞬間を描写します。しかし生き証人は消え、思い出も消えていきます。卓越した映画作りとは、それをものともせず、過去の罪 を正しい視点で見せるものです。」
東京グランプリ クリス・クラウス監督コメント
「非現実的なシュールな気分でいます。同じ舞台にジャン=ジャック・ベネックス監督と立てるなんて。先ほど拙いフランス語で二十 歳頃彼の映画をずっと見ていましたと伝えました。それなので夢が叶ったような気分です。この映画を撮ることは簡単ではなかった。 でもこの受賞によってフランス、ドイツ、そして日本でも公開されることを期待しています。この映画に出演してくれた素晴らしい俳優 とスタッフがいなければ、この映画はできませんでした。そしてこの映画のプロデューサーである彼女は、戦士でアマゾネスです。」
カトリン・レンメさん(プロデューサー)コメント
「本当にうれしいです。監督とは素晴らしい時間を過ごしました。この賞を受賞して圧倒されています。何も言えません。」
審査員賞特別賞
『サーミ・ブラッド』監督:アマンダ・ケンネル
1930年代、スウェーデン北部の山間部で暮らすサーミ族は、劣等民族とみなされ差別的な扱いを受けていた。従属を拒んだ少女は、運命を変えようと決意する…。
サーミ族は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの北部に居住する少数民族であり、フィンランド語に近い独自の言語を持っている。30年代のサーミ族は支配勢力のスウェーデン人によってスウェーデン語を強要され、同化政策の対象となり、劣等民族として差別を受けた。スウェーデンの歴史のダークサイドである。カーネル監督自身がサーミ族の血を引いており、自らのルーツをテーマとする短編を撮った後、処女長編となる本作でも同テーマを扱った。監督曰く「支配階級と劣等民族の構図はまだ存在します。映画はスウェーデン史の暗部を描いていますが、でも基本的には、同様なことが現在でも難民キャンプで暮らす誰かに起こりうるのです」。先の世代の体験を力強い少女に託し、ラップランドの美しい自然の中で描く感動的なドラマである。
監督 アマンダ・ケンネル
1986年スウェーデン・ウメオ生まれ。2013年にデンマーク国立映画学校を卒業。2006年から短編を撮り始め、高い評価を得ている。主な短編は“Stoerre Vaerie”。
審査委員 ニコール・ロックリンさん 講評
「映画作りのひとつの目標は私たち観客を驚くべき未知の世界に旅立たせてくれること。その旅路に人間性とモラルを問うストーリー と脚本の強さ、背景の美しさ、信じられない演技。人間とは何か。私たちはどこから来ているのかを問いながらも。驚くべきことに監 督はこの作品が長編デビュー作と聞いております。」
審査委員特別賞 アマンダ・ケンネル監督コメント
「主演女優とその妹を誇りに思っています。この二人がいたからいまここに立てている。そして東京国際映画祭ではいろんな人と多く 語り合うことが出来ました。映画祭という場はいろいろな国の社会を知ることが出来る場であると改めて思いました。」
最優秀監督賞
監督:ハナ・ユシッチ 『私に構わないで』
監督 ハナ・ユシッチ
1983年クロアチア・シベニク生まれ。ザグレブの芸術学校The Academy of Dramatic Artを卒業し、人間社会科学を学ぶ。短編“The Chill”“Gnats, Ticks and Bees”“Terrarium”“No Wolf Has a House”を監督。長編映画“The Mysterious Boy”の脚本を手掛けた。本作が長編監督デビュー作である。
ヴァレリオ・マスタンドレアさん 講評
「人とその生活、人間性またはその生き方の選択を否定せずに裁くことなく、そのキャラクターの表情、感情、その瞬間の場面から 伝わる強烈な反応を丁寧に敬意を持って見つめる。監督にとって映画作りの頂点こそ、時にはストーリーに直面しながらも最後ま でしっかりと見続けたいと思う。そういう作品でした。」
最優秀監督賞 ハナ・ユシッチ監督 コメント
「受賞されている皆さんのコメントをぼーっと見ながら、受賞が事前に知らされているからあんな風にスピーチできるんだなと思っていま した。まさか自分が受賞するとは思わなかったので何も考えていませんでした(笑)。出演者、スタッフに感謝します。」
芸術貢献賞
『ミスター・ノー・プロブレム』監督:メイ・フォン
監督 メイ・フォン
1968年内モンゴル自治区ウランチャブに生まれる。北京で中国文学と映画学を学ぶ。2003年、映画をより深く学ぶためフランスに渡り、パリ第8大学で学ぶ。中国では最も著名な脚本家のひとりであり、ロウ・イエ監督と長く組んできた。本作が監督デビュー作である。
審査委員 平山秀幸監督講評
「デジタルの時代であるが、映画はフレームの中をきっちり作り上げることが大事だと思っています。これは昔から変わらない、映画の 命ともいうべき光を大事にしてクラシカルとも言うべき頑固な文法をつくった作品を僕たちは選びました。」
最優秀芸術貢献賞 メイ・フォン監督コメント
「すばらしいスタッフとキャストに心から感謝します。現在の中国における映画環境でこのようなアート映画を撮り続けることができる のは、みなさんの協力があってこそです。映画というのは私たちの日常を切り取り素晴らしいものにしてくれるものです。」
WOWOW 賞
『ブルーム・オヴ・イエスタディ』監督:クリス・クラウス
WOWOW賞 クリス・クラウス監督
「観客による賞は私にとっては最高の賞。名誉ある賞をありがとうございます。そして、プロデューサーはこの映画をつくるためにほんと うに戦ってくれたのでご紹介させて頂きます。」
WOWOW賞 カトリン・レンメさん(プロデューサー)
「この作品のワールドプレミアが東京国際映画祭でした。プロデューサーとしては他国で評価されるのか非常に不安なものですが、 栄誉ある賞をいただけて感謝しています。」
観客賞
『ダイ・ビューティフル』監督:ジュン・ロブレス・ラナ
最優秀男優賞 パウロ・バレストロス 『ダイ・ビューティフル』
審査委員 メイベル・チャン監督 講評
「その男優は自分の奥深くにある秘密、弱さをさらけ出す演技力、艶やかさが備わっていました。さらに私たちは女性・男性という境 界線がこれほど交じり合うことができるという演技力に驚くとともに男優賞と女優賞どちらにすべきか迷いました。」
最優秀男優賞 パオロ・バレステロスさんコメント
「実は最優秀女優賞を獲るのではないかと思っていました(会場笑い)。監督は私を信じて、この役を任せて頂き、本当にありが とうございます。この作品を通して、たくさんの友情が生まれました。」
最優秀女優賞 レーネ=セシリア・スパルコク『サーミ・ブラッド』
審査委員長 ジャン=ジャック・ベネックス監督 講評
「最初に彼女が現れた瞬間、その強い存在感に釘付けにさせられます。自然で長い演説よりももっと強烈に人種差別の馬鹿げさ とナンセンスさを思い出させます。私たちの心を動かし微妙で繊細な演技力に感謝します。彼女に敬意を表し、彼女に値する賞で す。」
最優秀女優賞 レーネ=セシリア・スパルロクさんコメント
「心臓がドキドキしてここに立っている自分が信じられません。劇中でも私の妹を演じてくれた妹がいなかったらこの場に私はいませ ん。特に妹に感謝しています。」
コンペティション作品上映作品
『ミスター・ノー・プロブレム』監督:メイ・フォン
『ブルーム・オヴ・イエスタディ』監督:クリス・クラウス
『7分間』監督:ミケーレ・プラチド
『天才バレエダンサーの皮肉な運命』監督:アンナ・マティソン
『誕生のゆくえ』監督:モーセン・アブドルワハブ
『ビッグ・ビッグ・ワールド』監督:レハ・エルデム
『フィクサー』監督:アドリアン・シタル
『アズミ・ハルコは行方不明』監督:松居大悟
『パリ、ピガール広場』監督:アメ、エクエ
『私に構わないで』監督:ハナ・ユシッチ
『サーミ・ブラッド』監督:アマンダ・ケンネル
『シェッド・スキン・パパ』監督:ロイ・シートウ
『空の沈黙』監督:マルコ・ドゥトラ
『雪女』監督:杉野希妃
『浮き草たち』監督:アダム・レオン
『ダイ・ビューティフル』監督:ジュン・ロブレス・ラナ