今週「カレイド シアター」は、映画祭特集。

先日終わったばかりの「ぴあフィルムフェスティバル」と「アジアンフォーカス 福岡国際映画祭」に参加してきたので、そのご報告をしたいと思います。
そして最新公開作ご紹介するカミング・スーンのコーナーでは、「ハドソン川の奇跡」の他に、「ある天文学者の恋文」「アイ・ソー・ザ・ライト」「ハイヒール革命」もご紹介しましょうね。

『ハイヒール革命』

 それではさっそくですが、9/17からヒューマントラストシネマ渋谷で公開中のドキュメンタリー 「ハイヒール革命」にインスパイアされて思い出したのはこの映画。「プリシラ」です。

94年のオーストラリア作品「プリシラ」はドラッグ・クイーンたちが砂漠を突っ切って巡業に行くというロードムービーです。まだLGBT映画というカテゴリーもできていない時期の作品でしたが、飛び切り楽しくカラフルで面白く、ゲイ映画のイメージを変えた作品だと思います。

「ハイヒール革命」はLGBTで言うと、T、トランスジェンダーである真境名ナツキを追うドキュメンタリーです。男性として生まれたけれど心は女性である彼女が、母親の応援を受けて中学生の時にカミングアウトしてから現在までを、再現ドラマを交えて描いていきます。

ランドセルの色から制服まで、女だと思っているナツキに社会が押しつける男の形。
本当の自分を取り戻すために戦うと決意したナツキを母は積極的に応援、二人でたくさんの壁を乗り越えていきます。

昨年は同性婚として認められたわけではないにしろ、市町村レベルで「パートナーシップ」条例が可決され、同性のパートナーにも夫婦に認められる権利が与えられるようになりました。
それでも、まだLGBTに対する偏見や差別がなくなったわけではありません。その現実の中で生きづらい思いをしたナツキが語る経験は、なにが辛く、何が救いであったのか、つまり、I will surviveを具体的に教えてくれます。
高校までのナツキの少年時代を「竜馬伝」の濱田龍臣が演じているのも話題です。

『ハイヒール革命!』予告編 9月17日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開

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ぴあフィルムフェスティバル

映画を製作の形態で分類する場合、メジャー・インディペンデント・自主という分け方が可能です。メジャーというのは製作から配給・公開までを一括して手掛ける、日本で言うなら東宝・松竹・東映、ですね。対するインディペンデントというのは、独立系ともいいますが、製作会社が自前で作って、配給会社に頼んで劇場をブッキングし上映する作品です。そして自主映画というのは、会社ではなく、個人で作るものです。個人、といっても一人から仲間を募ってとか、学校ぐるみでとか、いろいろな規模で製作されるものです。こちらは基本的に劇場に配給されることはありません。よっぽど良くできていて、一般のお客さんを集められそうだとなれば話は別ですが、それでも全国公開ということはまずないでしょう。
 そんな自主映画の祭典が「ぴあフィルムフェスティバル」です。1977年から始まった「ぴあフィルムフェスティバル」、略してPFFといいますが、今年で38回目。9月10日から9月23日まで、東京・京橋のフィルムセンターで開催されました。

現在活躍中の監督の中にはPFF出身の監督も多く、いや、多くどころか、PFFがなかったら、スタジオシステム、つまり、映画を作りたければメジャー映画会社に入社して、スタジオで助監督からたたき上げて監督になるというシステム崩壊後の日本映画界はどうなっていたことやら。
PFFの応募作には、学校の卒業制作や文化祭のための映研作品もありますが、年齢や出身学校に関係なく、本当に映画好きで仲間と作っちゃったという作品も多く、見ていてそのパッションに圧倒されてしまいます。自主映画の一番いいところは、スポンサーや観客の好みを考えず、純粋に自分の作りたいものを作っていいところです。ただし、「伝える」という点は忘れてはいけないと思います。そこのところをPFFのファイナリストたちはちゃんとおさえていると思いました。どれも見ごたえがあり、ちゃんと伝えようという努力がなされている作品でした。
と言いつつ、実は2012年に、日本映画ペンクラブ賞の審査員として参加したのが初めてなんです。私自身、高校のときは映画監督になりたかったし、文化祭では毎年映画を作っていたりしたのですが、大学で演劇の方に作りたいものがシフトしたためもあり、自主映画は食わず嫌いしていたんですね。それが、まぁ、なんと面白いことか。謝りたくなりました(笑)。
今年で5年見続けてきましたが、なんか、年々ウェルメイド度が上がっている気がします。機材的・技術的にはもうほとんどプロ並みになると、問題は何を伝えたいか、になってきます。その点でもこの5年で変わってきた感じがするんですよね。若い分、進歩が速いんです、きっと。

 さて。今年のPFF。テーマは「映画はパンクだ」。
「PFFアワード」というコンペティションの上映作品は20本。5分のアニメーションから100分を越える劇映画までが上映され、各賞を争いました。
特集は「8ミリ マッドネス」としてPFF受賞監督によるそれぞれの代表的な8mm映画を11本上映。これがむちゃくちゃ、面白い。
  8mmで長編劇映画をつくろうという試みは他の国ではあまりないものだそうで、今回の11本を上映したベルリン映画祭・香港映画祭では熱狂的な支持を受けたそうです。

 PFFアワード受賞者は、ぴあがサポートする劇場公開用の長編映画を作る権利PFFスカラシップへの挑戦権を得ることができ、何人もの監督がここから一般映画の監督としてデビューしています。
 まさに新しい日本映画監督の誕生、前夜を目撃できる、わけですね。
 今年は東京での開催は終わってしまいましたが、来年はぜひお出かけください。

アジア・フォーカス 福岡国際映画祭2016

 次にご紹介するのは「アジア・フォーカス 福岡国際映画祭2016」です。9月15日から9月25日まで、福岡・博多のキャナルシティにあるユナイテッドシネマで開催されました。

 こちらは1991年から始まり、今年25回目。私は初めての参加でした。名前の通り、アジア映画に特化した映画祭です。今年は24の国と地域から82本の作品を上映。この映画祭はコンペティションはありません。アジア各国の新作・話題作の上映をメインに、今年はベトナム大特集があり、さらに2つの特集と3つの特別上映会が行われました。
 参加したのが三日間だけなので、一部分しか見られなかったのが残念ですが、国際映画祭では一部しか知ることのできないアジアの映画状況や、新しい作家たちの作品を見ることができて大満足の映画祭でした。

 アジアと一口にいっても、国はもちろん、一つの国の中でも民族や文化、宗教、言葉が違うことが当たり前の地域です。さらに映画業界的にも、映画会社が国営だったり、検閲がある国もあります。国策映画・娯楽映画・アート系映画と種類もいろいろです。

 日本で公開されるアジア映画はそんなに多いとは言えませんし、韓国・中国圏に偏っています。一時期イラン映画が比較的公開が多かったこともありますが、最近は少なくなっています。その他の国は年に一本くらい公開されればいいという感じです。
しかし、アジアの映画状況は刻々と変わってきています。娯楽映画だけだった国でアート系の作品が作られ海外の映画祭で評判になったり、二本やアメリカなどの映画がスタッフ込みでロケする国が現れたり、アニメなどはスタッフがほとんどアジアのプロダクションで賄われていたりする時代です。

そんなアジアの映画界が作る映画をバラエティ豊かに見ることができるのがこの映画祭です。
それぞれに工夫を凝らして、社会が抱えている問題をそれとなく盛り込んだり、映像的な冒険をしてみたり、ファンタジーものやホラーなどに挑戦したりと、意欲的なところを見せてくれます。
監督たちも若く、フィリピンの監督などまだ22歳だったりして、彼らの映画というメディアに対する期待の高さも感ずることができました。映画で何ができるか、試している、という感じです。

日本におけるアジア映画の公開は、先ほども言ったようにまず香港カンフー映画があって、そのつぎに香港・ノワール。どちらもアクション系のブームでした。そして次にアジア映画のイメージを変えたのがウォン・カーワイのオシャレ香港映画。それから、イラン映画ブームやマサラ映画ブームがあり、韓流が来て、アジア映画はオシャレ女子の専売特許みたいになりました。
 

と、いうわけで、来年も行ってみたいと思ったアジアンフォーカス福岡国際映画祭でした。今度はもっと長く滞在して、もっといっぱい見たいものです。

『ある天文学者の恋文』

9月22日から公開中の「ある天文学者の恋文」をご紹介しましょう。

 著名な天文学者であるエドと、天文学を学ぶ大学院生のエイミー。親子ほどに年の離れた恋人であるふたり。なかなかふたりで過ごす時間は取れないけれど、メールやスカイプで連絡を取り合っています。その日もいつものようにエドからのメールが送られてくるのですが、まさにその時、今エイミーが出席している講義を担当するエドの死が伝えられます。
 死んだはずの恋人から届き続けるメールや動画メッセージ。彼の死を信じられないエイミーはエドの足跡をたどっていきます…。

年を重ねてさらに渋くセクシーになっているジェレミー・アイアンズと、アクション映画ヒロインのイメージがあるオルガ・キュリレンコがカップルを演じています。死してなおメッセージを送り続けるエドの意図はどこにあるのか…。ラブストーリーとミステリーを組み合わせ、本当の愛というものについて考察させていくトルナトーレ監督。熟練の技、といった感じです。

ある天文学者の恋文 予告編

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『ハドソン川の奇跡』

 次の作品は9月24日から公開中の「ハドソン川の奇跡」をご紹介しましょう。
 クリント・イーストウッド監督の36本目の監督作。

2009年1月15日に起こったUSエアウェイズ1549便の、ハドソン川への不時着事件を描く作品です。
機長チェスリー・サレンバーガーの著書を原作に、「ハドソン川の奇跡」と呼ばれる事故の全貌と、事故調査委員会によるサレンバーガーの責任に対する調査について描いていきます。

 1549便の事故は飛行機の両エンジンに鳥が飛び込んだ「バードストライク」によるものでした。離陸してまだ間もなく、高度は850m。エンジンは停止し、乗客乗員155名を乗せた70トンの飛行機は、160万人の住むニューヨークの上空で降下を始めます…。
飛び立ったばかりのラガーディア空港に引き返すか、ニュージャージーの地方空港テターボロに向うか、管制塔の指示に機長サレンバーガーが下した決断は、ハドソン川に着水するという選択でした。
 わずか約3分半でくだされたこの決断は、155名全員の命を救い、この事件は「ハドソン川の奇跡」と呼ばれて、そのニュースは世界を駆け巡りました。

 しかし。155人の命を救った英雄でありながら、サレンバーガーは事故調査委員会の査問を受けます。計算上、ラガーディア空港に引き返すことが可能であり、その選択肢を捨てたことによって、乗客の命を危険にさらし、さらに、会社所有のエアバス一機を破壊することになった、という嫌疑です。
 町中の人から英雄とたたえられながら、一方では容疑者として取り調べを受けることになったサレンバーガー。
 911の記憶がまだ新しいサレンバーガー自身も、一つ間違えれば、911アタックの二の舞になったかもしれないという悪夢にさいなまれるのですが…。

 911の記憶。1549便がニューヨーク上空で爆発したり、市街地に墜落したりすれば、乗客乗員155人以上に、どれだけの人が犠牲になったことか。サレンバーガーだけでなく、誰もがぞっとしたと思います。
 映画はそこから始まります。意表を突く始まり方で、一挙に映画の中に引きこまれてしまいました。撮影は全編IMAXカメラで行われ、非常に鮮明な映像で、見ている人がその場に居るという感覚を持つことができます。

 イーストウッドという監督は、常に、「自分の信念を貫く男」を描きます。
ただし、その「信念」というものは、主人公がプロフェッショナルとしてやるべき仕事をやる、ということです。イデオロギーや頭で考えたものではありません。そして、それはしばしば、多数派や上司からの反発を受け、主人公は疎外されます。しかし、彼は自分を信じ続け、やらなくてはならないことを粛々と進めるのです。

 今回のサレンバーグ機長もイーストウッド・ヒーローのライン上にいます。40年間のパイロット生活の経験と知識、そして、何よりも命を大切にするという信念をもとに、わずか208秒で決断し、実行したわけです。けれど、彼を裁こうとする人たちには、その「経験」はないのです。
彼らが基にするのは「データ」と「コンピュータによるシュミレーション」という机上の空論というべきもの。それに抵抗しつくすサレンバーグにイーストウッドは、彼の理想とする男の姿を見たのだと思います。

機長を演じているのはトム・ハンクス。穏やかで冷静だけれど暖かな人間性を感じさせ、サレンバーグ機長という人を観客にしっかりと伝えています。他のメンバーには、副機長のアーロン・エッカート、機長の妻ローラ・リニー以外は、あまり知られていないけれど味のある俳優たちを使い、ドラマを機長たちに集中させ、リアル感も出しています。いいキャスティングだと思いました。
これはぜひ大きい画面で、できればIMAXで見ることをお勧めします。9月24日から公開中です。

映画『ハドソン川の奇跡』30秒TVスポット【HD】2016年9月24日公開

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『アイ・ソー・ザ・ライト』

最後の作品は10月1日公開の「アイ・ソー・ザ・ライト」です。
「アイ・ソー・ザ・ライト」は、カントリー・ミュージックのシンガーソング・ライターとして今もアメリカ音楽界に影響力をもつハンク・ウィリアムスの伝記映画です。
ハンク・ウィリアムスを演ずるトム・ヒドルストンが全曲自分で歌っているのも話題です。イギリス人、なんですけれど、トム・ヒドルストン…。

ハンク・ウィリアムスは14歳でラジオデビューし、29歳で亡くなっています。23歳でメジャー・デビューしてヒット曲を連発していきますが、その活躍期間はわずか6年。より人間観察力に富み、深い物語性をもったかれの音楽はカントリー・ミュージックを変え、今では「ロックの父」と呼ばれるようになっています。

 映画は、そんな彼が1944年に歌手志望のオードリーと結婚するところから始まります。1944年といえば戦争中ですが、ハンクは脊椎の病気を持っていたため徴兵されなかったのですね。
 伝記映画ですが、子どものころから死ぬまでを順番に描くことはせず、オードリーとの結婚生活に対する葛藤を中心に、ミュージシャンとしての成功と苦悩をからめながら描いていきます。
 トムヒの歌は見事ですし、悪妻と思われてきたオードリーに対する新しい視点も面白く、ユニークな伝記映画になっています。1940-50年代を再現したセットや小道具、衣装もみもの。トムヒ・ファンには見逃せない一本です。

アイ・ソー・ザ・ライト:予告編

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