自主映画ねっとの管理人の佳代がスロバキアで活躍されるアニメーション作家、古国府薫監督にインタビューをしました。


こんにちは、面白い自主映画を紹介する不定期連載を書かせて頂いております自主映画ねっとの佳代です。
第8回目はスロバキアでアニメーション制作をされる古国府薫(ふるこかおる)監督にインタビューしました。
古国府監督が制作されるアニメは海外のポストカードのように幻想的で可愛いものが多いです。
スロバキアで若い女性が制作活動されていることにとても興味を持ち、インタビューをさせて頂きました。

画像1: 古国府薫監督 制作風景

古国府薫監督 制作風景

⚪︎ 製作されているアニメーションやgifについて教えて下さい。

直接手で触れる方法、指でコントロールできる方法ならどのような手法もアニメーション制作に取り入れます。ストップモーション、手書き、油絵、砂、 紙、布、食物、万華鏡、立体、粘土など、なんでもごちゃまぜに取り入れます。私のアニメーション制作はいつでも実験です。うまくいく時もあるし、失敗する時もある実験です。

Surt’s Diaries より

画像1: Striped Tiger and White Rabbit (シマシマ虎と白兎) Excerpt vimeo.com

Striped Tiger and White Rabbit (シマシマ虎と白兎) Excerpt

vimeo.com

私のアニメーション制作には、大きく分けて2通りのクリエイティブプロセスがあります。計画を立て、ストーリーボードを作り、それに沿って短編アニメーション映画やコマーシャルを作ることもあるのですが、これとは別に、最初から最後まで感覚に従ってすすめる方法で作品を作ることもあります。

後者はちょっとエキセントリックに聞こえるかもしれませんが、物質との身体的コンタクトを通しての対話からうまれる方法です。ランダムな物質を撮影台に乗せ、その前に立ち、物質に肌で触れ、質感や属性を感じ、向き合い、対話する。そこから段々と、 私の手を物質の意思に任せ、動きを開拓していくような感覚でつくる時もあります。
その物質に憑依されたような感覚でアニメーションをつくる時はとても気持ちが良いのですが、このようにして出来たシーンは、大概あまりに短くストーリー性がなく、感情的が前に押し出された作品になることが多いので、単体で見せる方法としてgifにしてhttp://kaorufuruko.tumblr.com/ にアップしたり、ギャラリーで展示したりしています。

物質中心で作る作品の例 : 黒砂糖をつかいました。

コンピューター上でのアニメーション技法も試してみたことはありますが、どうやら私にはデジタル脳がないようで、物質と身体的コンタクトをとらないと何も生み出せない、立ち止まってしまいます。 ですので、編集作業時以外は、アナログ手法一筋で制作しています。 

収集癖があり、落ちているものや植物など色々拾って持って帰って来ては、箱や棚にためこんでいます。何年もかけて収集してきたものが、日本やスウェーデンやスロバキアの倉庫や棚で、制作に使われる日まで眠り続けています。スウェーデンには、タンスの引き出し上から下までいっぱい分の押し花を貯めています。スープの中に入っていた美しい形の魚の骨だったり、複雑な模様のベーコンだったり、私の心をつかむものは、何から何まで集めています。バラバラの違う国から収集した物が、一つのシーン内でパチッとパズルのように合ったり、呼応しあったりすることがあって、それがとても好きなので、私のような引越しの多いアーティストにとって倉庫が増え続けることは経済的に大打撃なのですが、やはり拾って来てしまうのです 。

私は物に宿るストーリーと魂をあたりまえのように信じているところがあって、これは日本の八百万の神の文化で育つなかで自然と自分に根付いていったものの見方なんだろうなと思います。
アニメーション以外にも、イラストレーションや実写やパフォーマンスなども表現方法として使ったりしたりもします。
絶望的にリズム感がないので、ダンス以外はなんでもやってみるタイプです。

画像2: 古国府薫監督 制作風景

古国府薫監督 制作風景

⚪︎ 幻想的で美しい作品が多いと感じました、作品のテーマはどのようにして決められるのですか?

ありがとうございます。
子供の時から、童話や神話などの昔話が大好きで、そういった本を読みながら妄想を膨らましていました。そして大人になった今は、そのような昔から伝わる話をビジュアライズすることが私の情熱になったようです。
作品のテーマは、決めるというより、まずはビジュアルがでてきて、作品の完成後、人にテーマを質問され、そこから思考回路の糸をたぐりたぐり、それにあった言葉を探していくことの方が多かった気がします。
逆にテーマを与えられるのも、「さあ、どう調理しよう」とワクワクするので好きです。特に音楽などを聞いていると、目の前にイメージやシーンが浮かんでくることがあるので、そういう、他人の音楽世界を自分のビジュアル世界に解釈して表現する方法も刺激的で好きです。

画像: ⚪︎ 幻想的で美しい作品が多いと感じました、作品のテーマはどのようにして決められるのですか?

⚪︎ 影響を受けた作家を教えて下さい。

19歳の時、京都で一人暮らしをしていた友達の家を訪れた際に、彼女がビデオテープで流したヤン・シュヴァンクマイエルが衝撃すぎて、今でもあの感覚をはっきり覚えています。当時の、今よりもずっと無知だった私にとって彼の作品は異次元の表現すぎて胸が高鳴りましたし、映像があんなにズキーンと脳天に突き刺さる事はそれまで経験した事がなかったので、未知の感覚にほとんどオロオロしました。どんな魔法を使ったら、こんなに活き活きとした生命と魂を物質に与える事ができるのか、当時の私には想像もつかず、彼の圧倒的な魔術にただひれ伏しました。あの出会いが、「アニメーション」という技法とは何だろうと考え直すきっかけになったと思います 。その後数年間は、イラストを描いたりしながらも、使い捨てカメラでシークエンスの写真を撮ってミニストーリーにしてみたり、今思えばボチボチと我流でそれっぽい事をしてみたりはしていたのですが、まさか自分がアニメーション技法を使うようになるとはなぜか思っていませんでした。結局私にとって初めてのアニメーション作品”シマシマ虎と白兎”を作ったのは、あの衝撃の出会いから5年後でした。

アニメ「シマシマ虎と白兎」

最近では、ハンガリーの作家Marcell Jankovicsです。彼の作ったFehérlófia が特に絶品です。これはシュヴァンクマイエル以来の衝撃でした。 この映画は、映像の音楽です。シーンのトランスフォーメーションが滑らかすぎて、一瞬たりとも目を離せません。アニメーションに興味のある方は一度観てみてください。絶対後悔しませんよ!
あとは「まんが日本昔話」です。子供の時、毎週楽しみに観ていました。いつか古国府版のむかし話アニメーションコンピレーションが作りたいと思って制作を続けているのですが、なにしろ基本的に個人制作なので、そこに辿り着くまでにはとんでもなく時間がかかりそうですが、気長に続けると思います。

⚪︎ スロバキアで生活されている日本人は珍しいなと思ったのですが、何故古国府様はスロバキアへ行かれたのですか?

スウェーデンの芸術大学での大学院生活を終え、「さて、次はどんな制作人生にしようかな」と思い始めた2014年の秋の日、インターネットの検索欄に「animation, art, residency」クリック!と今後のゆきさき占い、お伺いを立てました。検索結果の最初のヒットが、スロバキアの Košice (コシツェ)にある Kosice Artist in Residence (K.A.I.R)とCinefil共催のFilm residencyの公募で、興味をそそられた私はすぐさまそのレジデンシーに「土地に伝わる民話の短編アニメーション映画化」の企画で応募し、幸運なことに数百人の応募者中の1人に選出され、1ヶ月後には自作ポータブルアニメーションセットをがっつり担いでKosiceの空港に降り立っていました。
これが私の人生がスロバキアの方角へ方向転換したきっかけです。今までの人生、このように思いつきと感覚でインスピレーションの先へと引越してきました。今回スロバキアに来れたことも、とても良かったと思っています。
これは10週間のフィルムレジデンシーだったのですが、制作のためのリサーチを重ねるにつれ、スロバキアの民族衣装、民話、伝統、言葉の響き、自然、スロバキアの全てにすっかり魅了された私は、長期的にスロバキア民話の短編アニメーション映画化に取り組み制作したいと思いはじめ、今のZlatovlaskaプロジェクトにつながります。

⚪︎ スロバキアでの生活を教えて下さい、日本での生活との違いを教えて下さい。

スロバキアの前はスウェーデンに約5年程、他にもインド、マレーシア、イギリスなどでちょこちょこ生活してきました。日本だけでなく、以前住んだことのある国と比べても、スロバキアでの生活は時間の流れが特殊だと思います。

時間の流れがゆっくりしているようでいて、同時に季節の変化が、青空マーケットに並ぶ品や、鳥や草木などの生態系など、日々の生活に鮮やかに反映されているので、時間の刹那さ・諸行無常さに直面して生きている気もします。時間が流れていることを刻々と感じる、でも、改めて指折り数えるまで、2年の時間が経ったことに気づいてなかった・・・という不思議な感覚です。
浦島太郎の竜宮城が陸にあるとしたら、それはスロバキアなのかもしれないです。制作してたら、100年たってたよ、あちゃ~といった感じで。結構危険ですね。それぐらい不思議な魅力のあるいい国です。

スロバキアにほぼ2年住んでみて思うこと。スロバキア人は、自分の心の平穏や幸せを大切にして生きるのが上手だという印象を受けます。決して物質的に欲張りでなく、自然と調和し、自分の大切なものを優先して守る、地に足のついた人生を送っているといった印象を受けます。ユーモアのセンスもあり、おしゃべりでフレンドリーな良い人たちがたくさんいるスロバキア、昨年あたりからワーキングホリデーの協定ができたと聞いたような気がするので、興味のある方はゆっくり滞在する気持ちで来られてみてはいかがでしょう。

アニメ「スロバキアの民話」

創作活動の記録などを含むスロバキアジャーナル的なものをスケッチブックに書き溜めていて、時間のある時にブログにアップするので、時々見てもらえると嬉しいです。
リンク →

⚪︎ これから作ろうとしているアニメーションについて教えて下さい。

ひとつは、長期プロジェクト、スロバキア民話Zlatovlaskaの短編アニメーション制作に取り組んでいます。これは2014年冬から構想のあるプロジェクトなのですが、そろそろ本制作に入りたく、プロダクションの準備中です。ちょっと盛り込みたい要素を欲張ったので、時間がかかると思います。気長に取り組んでいます。このプロジェクトの様子についても、in.kaorufuruko.comの制作ブログ内で進行状況を記していくつもりです。

並行して、短期プロジェクトとして、町のアイスクリーム屋さんのコマーシャルをつくったり、アニメーションミュージックビデオをつくったりもしています。

今後は、今までのように、セッティングにとてつもない時間がかかるものではなく、もっと日常的に息をするようにアニメーションが続けれたらいいな~と思っています。いつかはそこに辿りつければいいのですが。実験を重ねての模索中です。

近況なのですが去年の作品、スウェーデン人ミュージシャンNimwayの音楽世界を視覚化したミュージックビデオ”Tryptokos”(キャプ画を3枚添付しています)が、近頃アニメーションフェスティバルなどで上映していただいています。正式なアルバムのリリースがまだなので、まだオンラインにはないのですが、オンライン上で発表できるようになった際には、ブログかFBなどでお知らせするので見てください。
8月7日から月末まで、チェコのブルノで個展を開きます。制作中の民話関連の作品を発表します。


物に宿るストーリーと魂を感じて、物を使ってアニメーションを作るというところに感動しました。
古国府監督のスロバキアでの生活が思い浮かぶような回答をありがとうございました。

古国府監督のWebsite :

ブログ : http://in.kaorufuruko.com/
gifギャラリー : http://kaorufuruko.tumblr.com/

This article is a sponsored article by
''.