映画『アルビノの木』金子雅和監督インタビュー!
都会に生きるからこそ”自然と人間”を考えるーー

現在テアトル新宿にて公開中の映画『アルビノの木』より金子雅和監督にインタビューさせて頂きました。

画像: インタビュー写真 映画『アルビノの木』金子雅和監督

インタビュー写真 映画『アルビノの木』金子雅和監督

よろしくお願い致します。早速ですが、本作品の着想をお聞かせいただければと思います。

自分はもともと劇映画ではない映像作品から映像に関わったのですが、自分の中のモチーフとして、“自然とその中にいる人間”凄く撮りたいということが常に在り続けていました。劇映画をつくるようになってからも、大事なカットはその点にこだわり続けてきたんですけれども、今回長編をつくる上ではいちばん撮りたい画自体をテーマとして取り組むべきだろうと思って、本作に至りました。

なるほど。画として大切にしてきたものをテーマにしてみようという試みだったんですね

あとは、ある日突然『アルビノの木』という名前がぱっと浮かんできたということもあります。まさにその語感というか、言葉と自分の中のイメージから物語を拡げていったということですね。

“自然と人間”というものが、先ほど自分の中で引っかかって…というお話がありましたけれども、それは何かご自身の体験などからなのでしょうか。

子どもの時から水が好きで、自分の中で執着としてあると思います。

確かに川のシーンを印象的に撮られていましたよね。

そうです。水がしつこいくらいにでてきますけれども(笑)それが何故なのか、言語では説明できないですが、例えば街の中の噴水とかにも、何かこうグッとくるものがあるというか、流れてくるものが凄く好きな子供だったんですよね。

なるほど。面白いですね。

自分は完全に東京生まれ東京育ちなんですが、本作も含め、以前の作品も都内で撮っている映画はほとんどないです。水や自然が好きというは、自分の中に無いものというか、都会の中で向き合いにくい、そんなものを渇望しているんだろうなということはあるんだろうなと思っています。

身近な自然としての水ということを無意識的に求めていたんですね。

金子監督は短編作品を2008~2013年にかけて6作品撮られていて、本作に至るということですが、短編作品と対して本作品の位置づけのような、例えば集大成であるとか、そういった意味ではどのように考えられているのでしょうか。

第1回長編監督作品の『すみれ人形』が2008年に公開され、本作は第2回目の長編監督作品になります。1作目の次に何を撮るかと考えた末に、重複しますが“自然と人間”というテーマがでたんですね。ただ、そのテーマがあまりにも大きすぎて、一度出口が見つからなくなってしまったことがありました。その時に、何か撮らないと出口は見えないだろうということで、短編作品を何本か連ねてつくることになり、そこでこの長編をつくるためのヒントをもらい、人脈を拡げていきました。短編自体がこの映画をつくるためにつくっていたので、今作は集大成だといえると思います。

第1回監督作品の公開から構想されていてということだと、製作期間は本当に長く、思い入れの詰まったものになっているということですね。

はい。撮影期間はまとめていますが、構想段階から今回テアトル新宿で上映の機会を頂くまでということでは8年間着手しているということになりますね。

本作を拝見させて頂いて、自然の匂いまで感じられそうな映像で、ロケーションにも相当こだわっていらっしゃることを感じました。

モチーフが決まった2008年からこの映画にふさわしい場所を捜し続けていました。ロケーションによって、話が膨らんでいった部分もあって、ここだけはどうしてもこの映画の中に入れたいという箇所も2つくらいあります。

山での撮影ということで大変だったエピソードも沢山あるのではないでしょうか。

(チラシヴィジュアル裏面にもある)川床が酸化して赤い水が流れているかのように見える川があるんですけれども、ここは山奥まで車でいって、車道が尽きたところからみんなで歩かないと行けない。酸性が高くて川の水は飲まないほうが良いので、水と、食糧と機材とを背負って1時間近く登り降りして。僕はこういうのが大好きだから良いですけれども、スタッフには迷惑がられるわけで(笑)

スタッフの人は相当大変ということですね(笑)

スタッフの一人は、「体力的に辛くて、この映画をきっかけに体を鍛えるようになった。そういう意味で印象深い」と言ってました。(笑)

どの映画の製作も本当に体力は大事になってくると思いますが、さらに体力資本な現場ですね。(笑)

あとは、撮影はバラバラに撮っていて、ある程度山奥まで撮ったあとにオープニングの方にある道路のシーンを撮ったんですが、アスファルトで撮るということは何て楽なんだろうと感動しました。(笑)矛盾してますが。

もう山道で苦労することに慣れてしまっていたんですね。(笑)
その苦労からも繋がりますが、金子監督ご自身で撮影もされているということで、画作りにおいてのこだわりを教えてください。

フィックスで広めの画を撮ることによって、画面の中の人間だけでなく、映っている全てのものをちゃんと見てもらいたいと意識してます。登場人物の後ろや周りに写っているのはただの背景でなく、それらも人間たちと同じく意味のある存在として感じてもらいたいんです。

それこそ、自然と人間の対比ということですね。

そうですね。対比でもあり、人もまた自然の中の一部である、ということを画の中にこめたいと思って撮っています。

キャストの決定の経緯を教えてください。

主人公ユク役に関しては、厳しいロケ環境の中、全撮影日程に参加してもらうのが条件だったので、10年来自分が一緒に映画をやってきて、信頼関係がすでにあった松岡龍平さんがベストだと思いました。同時に、ユクという役は駆除猟の仕事をやっているけれども葛藤がほとんどなく、害獣だから殺してもいいだろう、くらいに映画のスタート時点ではクールに考えているんですけれども、それが松岡さん本人のメンタリティと間逆なところが、後半の葛藤を描く上で意味を持つと思いました。

ヒロインのナギ役に東加奈子さん、そして羊市/村の男役には福地祐介さんを迎えました。この二人は村の住人ではありますが、変にヴィジュアルによって街の人と大きな差をつけたくなかったんです。服がボロボロであるとか、秘境にいることが明白にわかりやすい風貌ではない。あくまで、生きている環境が違うから価値観に相違があり、根底においてはやはり同じ人間であるということを表現したかったんです。リアリティの面においても、完全に山奥で生きるということは人間はできないじゃないですか。何かしら物資の交通がないと。大昔でも、山の中には塩がないけど、人間って塩分がないと生きられないので、必ず塩を運んだり、買いに行ったりする必要があって、昔の道ってそういう物資の流通からできていると思うんです。そういった意味で、孤立し過ぎていると嘘なので、そこまで自分たちと変わらない人達で、だからこそ共有できないところが悲しい、そこに葛藤があるというようにしたかったんです。

また、羊市役はどこか距離がある雰囲気を出したいなと思って探しました。演じた福地祐介さんは現在、シンガポールや台湾で俳優の仕事をしています。日本人だけれどもほとんど日本にいないという距離感が、この役にあっていると思いました。

今回のこの大きなテーマに取り組むにあたって、それぞれの害獣に対する考え方ではないですけれども、ある意味では答えがないのではないかというように感じられるもので、そういう中で監督としては一つの提示があるのだと思いますが、どのようなメッセージ性、想いがあるのかということをお聞きしたいです。

まさに映画のコピーで、「獣害ってなんだ?害獣ってどっちだ?」という一文があります。自分としてはあくまで、人間、獣のどっちが害なんだって断定したい訳ではないです。実際に今も山では害獣駆除が行われていますが、人間は人間で農作物を守るなど自分たちが生きていくために動物を殺さなければいけない。同時に動物の方は動物で生きなければいけない訳ですよね。それは昔から変わっていないことですが、環境変化の中で自然と人間の関係がいびつになってきている部分もある。

昔の人だったら獣を殺したら、それを食べて、毛皮を服にして、命を奪うことによって自分たちが生きているという実感があり、殺した相手に対してもちゃんとした敬意や想いを持っていたと思うんです。都会に生きている僕らはそれがもうわからないじゃないですか。お肉だってスーパーで買えばいい訳ですし、それが見えないことに対しては、まずいのではないかなという想いはあります。

だから、僕らが他のものの命を奪っているからこそ、いま生きているということは感じてほしいなということが、メッセージというか、作品の底にはあります。

そうですね。作品を観ていて「痛いな」というか。普段の都会の生活では実感できない部分に目を向けるきっかけになったし、その実感のない自分に対してその痛みを改めて感じることができたと感じています。

害獣駆除という部分の現状や問題は本作を拝見するまで、全然知らなかったです。これに関しては現場で多くの取材を重ねられたのですか。

はい。実際に害獣駆除をやられている方にも取材をして、自分も狩猟免許をとりました。それで猟のやり方や、どういう問題が進行しているのかなどを勉強して。このロケ地である長野や群馬の地元の人々は害獣被害を本当に深刻に語っていました。

作品を通して問題にしっかり向き合って、リアリズムを追求されているのですね。

そうですね。ただ、そういった現代の現実からスタートしていきつつ、ある種民話的なものをつくりたいなという意思がありました。昔話とか民話は一見ファンタジーのようにみえるけれども、実はその奥底には何かしら自分たちの生の実感に迫ってくるものが含まれていると思うんです。そういった意味での民話的な映画にしたい、と考えて作りました。

この作品を撮る前と撮ったあとで変わったことがあれば教えてください。

ずっと短編が続いていたので、手ごたえが違いますね。短編だと例えば5本で1つのプログラムで、感想が5分1になってしまう。面白くなかったら、忘れてしまう。そうでなくて、1つの枠の中でお客さんがこれだけをしっかりと観に来てくれるということは凄いことであるし、良くないと思う人は良くないとはっきり言ってくれるし、そういう充実感があります。

あと、今後も自然を撮りたいと思っていますが、この映画で描いたような大自然ではなく、もっと身近なところでもちょっとした植物があるように、ささやかな自然と人間の関わりはも、それはそれで面白いなと前よりも感じるようになりました。本作をつくっているときは、この壮大なテーマを撮らないと次は撮れないという想いが凄くあったので、それにはひとつけじめをつけられたと思います。

最後に観客へのメッセージをお願い致します。

この映画は大自然のロケーションが大きな見所ですが、そのような場所に行かなくても、自然は身近にあるわけだし、人間以外の生き物も実はどこにでも生きているわけで、この作品で水の流れや葉っぱの揺らめきを浴びるように体感して頂いて、そのあと街に出たときに都会のなかでも実はそういうものがあるじゃないかということを、映画を見る前より少しでも意識してもらえたら嬉しいな、と思います。

本日は充実したお話をありがとうございました。

映画『アルビノの木』7月16日(土)~29日(金)テアトル新宿にてレイトショー
監督・脚本:金子雅和
出演:松岡龍平、東加奈子、福地祐介、山田キヌヲ、長谷川初範ほか
©kinone 配給:マコトヤ

This article is a sponsored article by
''.