『Born to Be Blue』は、1950年代にストレートなトランペットと甘い歌声で人気を博すも、ドラッグで転落していったチェット・ベイカー。
その後、再び70年代に復活を遂げていく過程を、映画化し、天才の光と影を描いた作品。
チェット・ベイカーを演じているのはイーサン・ホーク。
日本公開が11月に決定した。
名ジャズ・トランペット奏者として一世を風靡した、チェット・ベイカーの半生を描くドラマ。
ドラッグに依存し、暴行されて歯を失い、どん底に落ちたチェットが再生を目指す姿を、イーサン・ホークが見事に再現している。
シャープな映像とクールな音楽が抜群の官能をもたらす傑作音楽映画。
ロバート・バドロー監督は、かつてチェット・ベイカーの謎の死を巡る短編を作っており(その作品でチェットを演じたステフン・マクハティは、今回チェットの父親役で出演)、それをきっかけに今回の作品が生まれた。
本作はチェットのどん底時代からの回復期に焦点を当てるが、チェット・ベイカー演じるイーサン・ホークが、破滅的でありながら繊細な美しさを持つ天才ミュージシャンの実像を見事に再現することに成功している。
また、激動の60年代において、黒人優位のジャズミュージシャンの世界における白人スターという地位の複雑さも描かれ、その苦悩が映画にも表れている。
チェットの恋人を演じるのは『グローリー/明日への行進』(14)で高い評価を得たカルメン・イジョゴ。
以下、2015年東京国際映画祭で来日のロバート・パドロー監督とジェニファー・ジョナスのインタビュー掲載
ロバート・パドロー監督(以下、監督):本作では、トランペット奏者のチェット・ベイカーを描いています。彼は日本でも非常に有名なミュージシャンで、たくさんのコンサートを開いてきたと聞いています。その彼についての作品をこうして東京国際映画祭で上映できることを嬉しく思います。今日は日本の皆さんの反応や質問に答える機会ができ、大変嬉しく思っています。
ジェニファー・ジョナスさん(以下、ジョナスさん):コンペティション部門に選出してくださったことを誇りに思います。今回、残念ながらイーサン・ホークはスケジュールの都合で来られませんでした。日本が大好きなイーサン・ホークはもちろん、エレインとジェーンの役を兼ねているカーメン・イジョゴも来日できず本当に残念がっていました。
ディビッド・ブレイドさん(以下、ブレイドさん):東京国際映画祭にお招きいただきありがとうございます。私はジャズ・ピアニストをしており、日本でも数多くのコンサートを開催しています。世界各国を周っているのですが、特に日本のお客さんはジャズに対する感度や知識が非常に高いと思います。今回、ジャズに関する映画を日本に持ってくることができ嬉しく思います。
Q:監督は過去に、チェット・ベイカーが亡くなったときのエピソードを映画にされており、相当な彼のファンだと想像しています。今作ではチェット・ベイカーがどん底時代から回復する期間を描いていますが、これは前作を作った時から構想していたのですか?
監督:もともと僕はジャズが大好きで、学生時代に作った一番初めの作品も、ディビッドさんと一緒に作ったジャズ映画なのです。なぜ、チェット・ベイカーのこのような期間を扱ったかというと、この時代の彼のエピソードは観客が彼に共感することができる、一つのカムバックストーリーであるからです。そしてさらに、ラブストーリーでもあるというのも理由の一つです。これ以降の晩年については、ブルース・ウェーバーの『レッツ・ゲット・ロスト』でも描かれていますし、50年代は彼が成功を謳歌して非常に有名だった時期です。この映画で描いている時代はあまり広くは知られていないと思い、あえて選びました。
Q:イーサン・ホークさんがこのプロジェクトに関わることになったいきさつを教えてください。
ジョナスさん:イーサン・ホークは、たまたまトロントで別の作品の撮影をしていて、我々と同じ町に居たんです。それはとてもラッキーでした。チェット・ベイカーの役に前から興味を示しているということも知っていましたし、ルックスも非常に彼と似ていますよね。ということで、イーサン・ホークにはかなり早い段階から企画にのってもらいました。幸いなことに、音楽については撮影の6ヶ月前から手がけることができ、彼もトランペットの指使いなどを6ヶ月かけてみっちりやってくれたんです。6ヶ月間というとそれほど長い期間ではないように思われるかもしれませんが、映画製作としてはかなり贅沢な期間です。そういったラッキーな部分もありつつ、彼が参加することができました。また、これは皆さんご存知だと思いますが、歌はイーサン・ホーク自身が歌っています。
Q:イーサン・ホークさんの役作りについて、工夫した点や監督と話し合われた点を教えてください。
監督:イーサンは、実は彼が『6才のボクが、大人になるまで。』(“Boyhood”)で組んでいるリチャード・リンクレイター監督と一緒にチェット・ベイカーの映画をやろうという計画があったんです。なので、彼はチェット・ベイカーについては僕と同じくらい夢中でいてくれて、脚本の執筆にあたってもコラボレーションしてくれました。また、トランペットやボーカルのレッスンに対しても、非常に意欲的に取り組んでくれました。ジャズやチェット・ベイカーの逸話についても積極的に学んでくれました。俳優として素晴らしいのは言わずもがな、ルックスも非常に似ていて、音楽のセンスもあります。そしてなによりも情熱的にこの作品に取り組んでくれました。これは映画をご覧になった皆さんもおわかりになったと思います。
ジョナスさん:現場でのイーサンは非常に意欲的でした。例えば、エキストラでやってくる皆さん一人ひとりと握手をしたり、キャストが現場にやってくると必ず事前に打ち合わせをさせて欲しいとお願いをしてきたりと、彼は自分が製作側にいるという意識で取り組んでくれていたようです。
Q:この映画に出てくるチェット・ベイカーの父親役の役者さんが、監督の以前の作品でチェット・ベイカーを演じていますね。チェット・ベイカー役同士ですごく似ているところが面白かったのですが、彼ら二人の間ではチェット・ベイカー論を戦わせたりしたのでしょうか?
監督:チェット・ベイカーの父を演じている俳優は、スティーブン・マックハディーというカナダの俳優です。前に撮った短編でチェット・ベイカーが死ぬ数時間前を演じています。この長編を撮ると決まったときに、父親役にはぜひスティーブンをと思いました。イーサンとのケミストリーも非常にいい関係を醸し出していて、うまくいったのではないかと思います。
Q:イーサン・ホークの横顔が大変美しくとても感激しました。冒頭からびっくりしたのが、彼の歯が1本抜けていたことです。これは本当に抜いてしまったのですか?それとも何らかの特殊効果が使われているのでしょうか。
監督:歯は一部メイクと、CGでも少しいじっています。あれは口にものを入れていて、それに加えてメイクをしています。歯は非常に重要なポイントです。前歯が1本抜けているからチェット・ベイカーはあのようなサウンドになるんです。とてもいいポイントを観てくださったと思います。
Q:この映画のチェット・ベイカーは、すごくかわいらしい一面のある方だったように思えました。監督は彼がどんな人だったと思っていますか。
監督:人間皆そうだと思うのですが、誰しも多面性があるんですよね。なので、この映画のチェット・ベイカーも立体的に描こうとしました。かつ、イーサン・ホーク自身が非常にナイスガイだということも活きていると思います。チェット・ベイカーの比較的共感できる時代を描いていることもあり、そういう意味ではダークなだけではないチェット・ベイカーを描けていると思います。彼に関するバイオグラフィーや色んな書物を読むと、例えばドラッグのような、非常にダークな時期があったことがわかります。しかしそれは今まで散々描かれてきたので今回は止めにしました。結果として、非常に音楽が大好きで、夢中で、いささかメランコリックなミュージシャンを描くことを意識しました。
ブレイドさん:この作品のワールドプレミアで、1980年代にチェット・ベイカーのマネージャーをされていた女性の隣に座ったんです。この女性は相当苦労されたようで、チェット・ベイカーのことが大嫌いだとおっしゃっていたんですね。この映画は新たな視点でチェット・ベイカーを捉えているので、彼女はこの映画を観たことで「彼に対する考えが変わったわ。ちょっと共感できるようになったわ。」とおっしゃってくださいました。
Q:イーサン・ホークが歌うところは本当に素敵で何度も聴きたいと思いました。歌い方、歌の伝え方について、監督はイーサンとどのようなお話をされたのですか?
監督:まずはイーサン・ホークの話からしますと、歌を歌ったりギターを弾いたりというのは『6才のボクが、大人になるまで。』(”Boyhood”)など過去の作品でも少しはやっています。ですが、チェット・ベイカーは非常に独特な、きちんと訓練されていない声で歌うので、やはりそれが難しいということになりました。そういうわけで、彼にはニューヨークでボイストレーニングのコーチをつけて訓練させました。非常に役に立ったのは、他の俳優がミュージシャンを演じている映画を観たことです。例えばホアキン・フェニックスがジョニー・キャッシュを演じている映画がありますが、ジョニー・キャッシュ本人とは似ても似つかないような声で歌っているんです。そういう例を観て、彼は「真似事をする必要はないのだ」という意識になってくれました。チェット・ベイカーの魂を体現しながら、物真似にならないようなアプローチをすることができました。
ブレイドさん:撮影に先立ち、ジャズの楽曲をあらかじめ全てレコーディングしました。それにイーサンが後から歌をかぶせていくわけです。技術的に非常に難しい所はあったのですが、劇中でも見事な、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれていると思います。どのようにすべきかということを彼は自分でわかっているようだったので、音楽監督として私の方から事細かに演出することはありませんでした。ただ、あらかじめレコーディングした楽曲に映像を合わせるので、正確に口の動きを合わせないといけないということはありました。
ジョナスさん:今回は実際にチェット・ベイカーの楽曲のミキシングを手がけている方に参加してもらい、非常に助かりました。また、1970年~80年代に実際にチェット・ベイカーとコラボレーションしたベーシストとドラマーの方にサウンドトラックで参加していただいています。
オリジナルサウンドトラックは以下のようにラインナップ
1. My Funny Valentine – Ethan Hawke
2. Over The Rainbow – David Braid
3. Let’s Get Lost – David Braid
4. Ko-Opt – David Braid
5. Could Have Been – David Braid & Strings
6. I’ve Never Been In Love Before – Ethan Hawke
7. Once Away – David Braid & Strings
8. Blue Room – David Braid & Strings
9. Haitian Fight Song – Charles Mingus
10. Bowling Alley Boogie – David Braid
11. Go Down Sunshine – Odetta
12. Tequila Earworm – David Braid
13. A Small Hotel – David Braid
14. Born To Be Blue – David Braid