「海すずめ」

画像1: Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会


 地方都市を舞台に、そこに住む人々の日常生活と人生をドラマにした映画が、近年増えている。例えば、函館が舞台の「世界から猫が消えたなら」「オーバー・フェンス」「函館珈琲」、能登の岬を背景にした「さいはてにて やさしい香りと待ちながら」、福井県丹南地域と韓国を結ぶ「つむぐもの」、長岡が舞台の「この空の花 長岡花火物語」、新潟県小千谷市が舞台の「おにいちゃんのハナビ」、香川市をバックにした「百年の時計」などなど枚挙に暇がない。

画像2: Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

こうしたご当地映画の多くはその土地ならではの特産品、名物の祭りなどを織り込みながら、ドラマが展開する。土地の名士や企業・商店が製作協力者としてクレジットされており、映画による町おこし、PRとしての効果を期待しての参加というところもあるだろう。ご当地で先行上映されることも多い。

画像3: Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

 今回取り上げた「海すずめ」は四国の愛媛県宇和島市が舞台である。
市立図書館では自転車課というセクションを設けて、三人が市民に自転車で希望の本を届けていた。主人公の赤松雀はもともと本が好きで自分でも小説を書き、それが新人賞を受賞したものの、二作目が書けず、故郷に逆戻りしていた。
岡崎賢一はプロのサイクリストだったが、挫折して引退、それでも自転車に乗れる仕事がしたくてという、よくあるパターン。
バイトのハナは雀の小説に触発されて小説家を目指している。自転車課の三人に加えて、雀の祖父、両親、そして離島に住む図書館利用者である老女トメを中心にストーリーが展開していく。

画像4: Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

 この映画を見るまで知らなかったのだが、独眼竜伊達政宗の長男秀宗が1615年に宇和島にやってきて宇和島藩伊達家が始まり、現在でも子孫の13代当主がいるとのこと。400年を記念して、市では宇和島伊達400年祭を催し、3000人の武者行列を行う際の目玉としてお姫様の衣装を復刻することになっていた。
お姫様の打ち掛けの意匠が分からず、昔の文献である宇和島藩刺繍図録に記されてあるらしいので、数か月前から探すように市役所から頼まれていたのだが、雀は全然やっていなかった。打ち掛けを縫うタイムリミットが数日後に迫ってきたが、どこにあるものやら。そんな時、トメがそういえばそんな本を戦時中に見たことがあったなと言い出し、図書館員、雀の家族、そして当主本人まで参加しての捜索大作戦が始まることに。

画像5: Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

Ⓒ 2016「海すずめ」製作委員会

 実を言うと、試写状に「時空を越えたミッション」とあったので、SF好きな私はてっきりヒロインが江戸時代にタイムスリップして行列を目撃することになると思い込んでいたのだが。実際問題として、資料探しといった大事なことをぎりぎりまで彼女一人にまかせっきりにしているはずもなく、それがうまく見つかるのもあまりに都合よすぎる。いろいろとリアリティに欠けるところはあるが、ヒロインのさわやかさ、宇和島の風景の美しさは本物だから、良しとするか。
家族、友人、同僚との関係も型通りながら、演じる俳優の巧みな演技で、ほっとさせられる。雀にはアクション女優としても知られる武田梨奈、岡崎に東海地方で活躍するBOYS AND MENのメンバーである小林豊、トメにベテランの吉行和子、両親・祖父をそれぞれ内藤剛志、岡田奈々、目黒祐樹が演じている。監督・脚本は愛媛出身の大森研一が手掛けている。

画像: 「海すずめ」予告編 youtu.be

「海すずめ」予告編

youtu.be

【出演】
武田梨奈 小林豊
内藤剛 岡田奈々 目黒祐樹
吉行和子 ほか
監督・脚本:大森研一
主題歌:「ただいま。」植村花菜(キングレコード)
2016年/日本/カラー/16:9/5.1ch/108分
配給:アークエンタテインメント

7月2日(土)有楽町スバル座ほか全国ロードショー

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

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