「エクス・マキナ」はアカデミー賞の視覚効果賞を受賞したことでもわかるように、近未来的な科学技術のすごさを映像で見せ、同時に技術と人間とのかかわりを通して、人間の本質に対する洞察を試みたドラマである。

監督・脚本はアレックス・ガーランド。これまでに「ザ・ビーチ」(99)と「テッセラクト」(03)での原作提供、そしてゾンビ映画「28日後・・・」(02)、近未来SF「サンシャイン2057」(07)の脚本執筆と、その経歴からも明らかなようにSFホラーを得意とした映画人だ。
最近でもカズオ・イシグロの同名原作に基づく「わたしを離さないで」(10)や同名コミックスを基にした「ジャッジ・ドレッド」(12)の脚色と製作を手掛けており、SF畑に固執していることが分かる。

 世界最大のインターネット検索エンジンのプログラマー、ケイレブは社内のくじ引きに当たって、めったに顔を見せないCEOネイサンの山荘に招待されることになった。ヘリコプターで雪原、雪山を越えた深い森の中、まさに隠れ家のような場所に山荘は建造されており、重警備が施されているので、出入りも容易ではない。この山荘は、実は研究施設で、内部は人間的な温かみに欠け、寒々とした印象を与える。

 ケイレブは、ネイサンからかなり哲学的な質問を投げかけられた後で、彼の最新の創造物である人工知能を備えたロボットを見せられる。女性的な顔とボディをもったロボットで、エヴァと名付けられていた。エヴァは強化ガラスの向こう側にいて、ケイレブは彼女が人間として通用するかということを見極めてくれと言われた。このテスト場面は「ブレードランナー」(82)で、デッカードが対象者を尋問することで、人間かレプリカントかを見分ける場面を想起させる。

 「なぜロボットに女性のボディと名前を与えたのか?」というケイレブの問いに、ネイサンは「自然界ではすべてに性別があり、思考も行動も生殖本能に左右されるから。そしてもう一つは面白いから」と答える。たしかに、これまでのロボット映画の多くは男女それぞれの体型と音声をもっていて、性別によってそのキャラクターも描き分けられ、ストーリー展開にも反映されていた。「女性型ロボットというと『メトロポリス』(27)のマリアのイメージから逃れるのはとても難しい」とガーランドは語っているが、エヴァのデザインは、後頭部と首がスケルトンになっていて、金属むき出しの脚部がついている。エヴァとの対話はケイレブに影響を及ぼしていく。
観客もロボットと人間の違いとはなにかと自問するようになったところで、急展開してアクション場面となり、意表を突くラストシーンへとつながっていく。

 ケイレブには「わたしを離さないで」「ジャッジ・ドレッド」にも出ていたドーナル・グリーソン、ネイサンにはオスカー・アイザック、エヴァには「リリーのすべて」(15)でアカデミー助演女優賞を獲得したスウェーデン出身のアリシア・ヴィキャンデル。
製作時にグリーソンとアイザックは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』への出演が決まっており、「緊縮製作費(1500万ドル)なので、人気映画に出る俳優の作品ということで宣伝の助けにもなる」とガーランドも大喜びしてスタジオで踊りまくったという。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

画像: 映画『エクス・マキナ』予告編 youtu.be

映画『エクス・マキナ』予告編

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