本年度アカデミー賞®長編ドキュメンタリー賞ノミネート!!
2015年 サンダンス映画祭USドキュメンタリー部門 撮影賞/監督賞 受賞
『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー製作総指揮

ひとりの映画作家が【メキシコ麻薬戦争】の最前線に乗り込み、
“命がけ”で善悪の境界を暴き出す、もっとも危険なドキュメンタリー!
正義が揺らいでも、悪は揺らがない──。

『ハート・ロッカー』の監督キャスリン・ビグローが製作総指揮を務めたドキュメンタリー『カルテル・ランド』(5月7日より全国順次公開中)の大ヒットを記念し、トークイベントを実施いたしました。

麻薬カルテルの縄張り争いや政府との武力紛争を指す「メキシコ麻薬戦争」は、これまでに12万人以上もの死者を出し、今もなお悪化の一途を辿っています。本作は、そんなメキシコ麻薬戦争の最前線で自ら麻薬カルテルに立ち向かう人々の姿を追い、正義と悪の境界が消滅していくさまを映した衝撃のドキュメンタリーです。

トークイベントでは、佐村河内守氏の「ゴーストライター問題」を題材にした最新作『FAKE』の公開が控える映画監督であり、作家、明治大学特任教授の森達也さんをお招きして、ドキュメンタリー作家としても著名な森さんの視点から、本作を熱く語っていただきました。

画像: 森達也監督

森達也監督

『カルテル・ランド』大ヒット記念トークイベント 森達也監督

オウム真理教の内部に迫った『A』、『A2』、そして「ゴーストライター問題」で知られる佐村河内守に密着した最新作『FAKE』(6月4日公開)など、世間を騒然とさせる衝撃のドキュメンタリー映画を発表し続けてきた森達也が登場すると、場内は大きな拍手に包まれた。

メキシコの麻薬カルテルに立ち向う自警団を追った『カルテル・ランド』について、森は「自警というテーマに関して言えば、僕が『A』を撮っていた頃、日本にも自警団が増えてきたということを思い出した」と95年当時を振り返り、日本における自衛の在り方の変遷を語った。

「今日はJRで渋谷まで来たが、至る所に警察官が立っていて驚いた。伊勢志摩サミットの影響だとは思うが、95年以前には監視カメラもなかったし、警察官の数も少なかった。駅のごみ箱が透明になっているのも、地下鉄サリン事件以降のこと。若い人は今の状況を当たり前のことと思うかもしれないが、そうではない。そして、過剰なセキュリティが危険を招くこともある。そういうことを日々考えていたので、この映画は僕の“ツボにはまった”し、とても大事な映画だと思った」と本作の持つ意義を伝えた。

そして、今日見たというあるニュースを例に挙げながら、『カルテル・ランド』でも鮮烈に映し出される“正義と自衛が一緒になった時の危険性”について、話を続けた。
「(日本の国立アカデミーであり、科学者たちの代表機関である)日本学術会議で、昨日、ある発表があったそうです。日本は戦後、戦争を目的にした研究は絶対に行わないというテーゼを掲げてきた。しかし、これからは軍事用と民生用の両方を対象にする決定をした、と。
ステートメントの中には、戦争に協力するつもりはないが自警のためには仕方がないといった趣旨のことが書かれている。これはまさに自民党が繰り返し用いてきたレトリックで、今回の決定も政府の意向によるものだろう。

去年、北朝鮮の平壌にある戦争博物館に行ったんです。
北朝鮮は韓国と休戦中で、つまりまだ戦争状態にあるんですね。その博物館は、“誇り高き我が民族をアメリカ帝国とその傀儡から守るために戦うぞ”といった場所で、世界中にこういう場所はある。自衛という意識はすべてを正当化する。
北朝鮮にとってみれば、彼らの核兵器開発は当然のことで、正義なんです。なぜなら、それは自衛だから。でも、韓国側にも同じ理屈が言える。北朝鮮から自分たちを守るために戦わなければならない。アメリカにとってのベトナム戦争もイラク戦争も、ナチスドイツのポーランド侵攻や大虐殺ですら、そういう彼らにとっての理屈がある。

つまり、自衛意識が過剰に発動したときに、恐ろしいことが起きるのです。普通、人を殺してはいけないなんてことは誰だった分かっている。それなのに、自衛のためなら、家族や愛する人を守るためなら、正当防衛だからやってしまう。
うしろめたさが働かず、暴走してしまう。怖いのはここなんです。自衛は、正義ですから」と強く述べ、「『カルテル・ランド』は、人間にはそういった部分があるといことをしっかり描いていて、しかもそれをとても面白く見せてくれている」と唸った。

大きな集団が善悪を二極化し、決めつける現象がエスカレートしているという話題になると、森は「それは昔からで、今に始まったことじゃない」と訴え、「でも、今はメディアが進化した。インターネット、そしてSNSの普及はすべてを変えた」と付け加えた。
「インターネットという、物事の規模や物理的問題も簡単に飛び越えるメディアの登場によって、メディア全体の負の部分が可視化されていく。物事の白黒が単純化されていくのです。でも、それはメディアが好き好んでそうするのではなく、社会がそれを求めているから。新聞やテレビといった既成メディアはネットに競争原理を煽られているから単純化が加速する。分かりやすい方が、視聴率が上がるし、部数も上がる。そうして“中間”が消えてしまう。本当はどんな情報なのか、どのように加工されているのかを読み解くリテラシーを身につけないと、メディアによって世界が滅んでもおかしくない状況になっていると思う」。

そうして、メディアの現状に抱く不安を語った森は、とりわけ現在の日本に危機感を覚えていると言う。「僕は、日本で一番こういった現象が進んでいると思います。とにかく人に流されやすく、一極集中、付和雷同。世界一ベストセラーが生まれやすい国。そういう国。だからこそ、リテラシーを身につけなければならないんです」と、警鐘を鳴らした。

続いて、メキシコの現状に話が移り、『カルテル・ランド』の舞台であるミチョアカン州で、今は自警団同士の抗争が激化していると知った森は、「自警団同士って、一体何を守っているんだろうね」と一言。さらに、映画を観た麻薬カルテルのメンバーから「何が描かれているのかよく分からない。(メキシコ麻薬戦争を描いた劇映画である)『ボーダーライン』のほうが面白い!」という意見が目立ったと聞くと、「アメリカでも外国映画は全部吹き替えにしちゃう。みんな単純なものが好き。メキシコでも同じなのかな」と答えた。

今年1月、長らく逃走中だったメキシコのシナロア・カルテルの最高幹部であり、現役最強ともされる麻薬王“エル・チャポ”ことホアキン・グスマンが逮捕され、世界中に衝撃を与えた。
エル・チャポが逮捕前にハリウッドスターのショーン・ペンと秘密裏に面会していたことも大きな話題を呼び、エル・チャポはペンに自分の映画を撮ってもらおうとしたのではないかという説もある。それに対し森は「本人が演じれば、まさに『アクト・オブ・キリング』のメキシコ版になりますね!」と笑った。

そうして最後に、話は再びメディアリテラシーをめぐる問題に戻った。「『カルテル・ランド』を観れば分かると思いますが、白黒を引っ繰り返して物事を見てみるだけじゃ意味はない。
白と黒は混然しているのだと示すことが何よりも大事。風景画を描こうとするときに、原色のまま絵具を使う人はいないですよね。木を描くために緑に青や黄を混ぜてみたりする。世界とはそういうもの。なのにメディアは、木は緑で、雪は白で、空は青と単純化する。
本当はもっとたくさんのものが滲んでいるのに、省略してしまう。でもそれは、僕らがそれを要求するからなんです。僕らが求めれば、メディアは変わるんです」。

『カルテル・ランド』が正義と悪が入り混じる複雑な現実を映し出しているように、物事は簡単に単純化できないという事実を知ることの重要性を強く訴え、トークを締めくくった。

画像: 本年度アカデミー賞ノミネート『カルテル・ランド』|5月7日(土)全国公開! youtu.be

本年度アカデミー賞ノミネート『カルテル・ランド』|5月7日(土)全国公開!

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監督・撮影:マシュー・ハイネマン
製作総指揮:キャスリン・ビグロー(『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』)
2015/メキシコ・アメリカ/100分/原題:CARTEL LAND/
配給:トランスフォーマー
© 2015 A&E Television Networks, LLC

シアター・イメージフォーラム他にて大ヒット上映中!

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