「友だちのパパが好き」とは、これまた強烈なインパクトを与える題名である。
12月19日のユーロスペースでの公開を皮切りに、全国で公開される本作は、ソフトバンクモバイルの白戸家シリーズCMを手がけた山内ケンジの劇場映画監督二作目に当たる作品だ。

画像1: (C)2015 GEEK PICTURES*

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 仲良し女子大生二人組、霜崎妙子と吉川マヤ。妙子の家にもよくやってくるマヤが、突然「妙子のパパが好き」なんて言いだしたけど、妙子はあきれて本気にしなかった。母のミドリに打ち明けたら、笑い出すしまつ。父恭介と母の仲は冷え切っていて、ひそかに離婚話が進んでいるのだが、まだ妙子には打ち明けていない。マヤは恭介に接近し、恭介も娘の親友だからと遠慮しつつも、若い娘に思いを寄せられれば、当然悪い気はしない。中年男のひそかなる願望を巧みにくすぐる設定である。

 離婚話が出ているのは、恭介にハヅキという愛人がいるからで、しかも彼女は妊娠しているらしい。二人が喫茶店でこそこそ話しをしているのを、隣の席にいて聞き耳を立てているマヤ。二人の前にマヤが現れた時、恭介はあわてて彼女を娘の妙子だと言い繕う。
 以後、このアイデンティティのごまかしと、マヤと霜崎家の三人の関係、さらに彼らを取り巻く人々との(傍から見ると)奇妙な、だが、当事者にとっては必死の思いの行動が時にユーモラスな、時にエキセントリックな結果を生むことになる。
 プレスシートに“未だかつてないややこしさで送る、純粋でヘンタイな恋愛映画がここに誕生!”とある。送るはたぶん“贈る”の間違いだろうが、ややこしくて、純粋でヘンタイなことは間違いない。題名から、見る前はスウィートな青春コメディと思っていたが、とんでもない。若いマヤの暴走する純愛には圧倒されっぱなしだし、中年夫婦、恭介とミドリそれぞれの肌すりあうような情事もまた一つの愛の形に違いない。

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 観客の予想を覆しつつ、危険なラヴ・アフェアが展開し、見終った後にふーっとため息をつく人もいれば、アハハと微苦笑をもらす人もいるだろう。犬がおとうさんという奇妙奇天烈なCMを作った人らしい通常のドラマの枠におさまらないけったいなストーリー、無駄のない構成と演出、そして、それらを見事に表現した俳優陣の演技に喝采をおくりたい。

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 恭介役の吹越満、絶妙の空気感がいい。マヤのその場の空気を読まず、友人の家庭を壊すからと躊躇したりせず一途に思いをつらぬくさまを安藤輪子が自然に演じている。
実際は自然に見えるように演じているのだろうが、彼女でなければマヤの印象は大きく変わっただろう。脇役陣も賞賛に値するが、特にハヅキ役の平岩紙がいい。
ルックスからくるのだろうか、まとわりつかれたら面倒だなと思われる人物の役をやらせると、実にうまい演技をする女優さんである。

映画『友だちのパパが好き』予告編

youtu.be

監督・脚本:山内ケンジ
出演:吹越満、岸井ゆきの、安藤輪子、石橋けい、平岩紙、宮­崎吐夢、金子岳憲
企画・製作:ギークピクチュアズ
制作プロダクション:ギークサイ­ト
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS  2015年/日本/105分/カラー/16:9/ステレオ

12月19日、ユーロスペースほか全国公開!

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。
大好きなSF、ミステリー関係の映画について、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。


 

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