『お嬢さん乾杯!』(木下恵介 49)

元華族の令嬢の泰子(原節子)と自動車修理工場経営者の圭三(佐田周二)、没落貴族と新興成金の恋を描いたロマンチックコメディ映画です。敗戦後の日本で華族社会を含む戦前の価値観が崩れ、新しい社会への希望を描かれています。

画像1: 『お嬢さん乾杯!』(木下恵介 49)

泰子が圭三にどうしても相容れない部分を感じ、食事の誘いを蹴って別れたあとにしみじみと漏らす台詞が「お腹空いた」。シリアスなやり取りのあとなのに空腹には逆らえないおかしさ、それは没落した華族の内情の苦しさ、華族のプライドを捨てきれない心情を一言で表現しています。泰子が圭三に正直に胸のうちを話したあと、圭三が泰子の家へ送るのに使うのが修理で預かっていたバス。引いた画の中に、泰子の家の前にバスが横付けされます。それぞれの隠し立てすることのない今を象徴する物、それはまた一つ二人の前にある壁が取り払われた印象を与えてくれるショットです。ボロボロの泰子の家のディテールも見事です。
話が進み、二人の仲が上手く行きそうになります。嬉しくなった圭三は、バイクに弟(佐田啓二)と2人乗りして街中をぐるぐると軽快に走り回ります。さらに圭三は両手離しをしだします。彼の喜びが観る側にもストレートに伝わってくる場面です。

画像2: 『お嬢さん乾杯!』(木下恵介 49)

エンディングで泰子が圭三に言う最後の台詞。生まれや育ちの違いで意識してしまうこと、華族の人々の言葉に出せない引け目、2人のあいだにある溝は、生半可なことでは埋まらないと思いながら観ていました。
それが令嬢のそれまでの言葉遣いとは全然違う、華族と庶民の言葉をゴッチャにした変な言葉の一言で埋められてしまいます。脚本の新藤兼人さんは、同じく没落した華族を描いた『安城家の舞踏会』も執筆してますが、見事としか言いようがないです。
観終わったあと、清々しい気持ちになります。原節子さんの清楚な美しさ、そして可愛らしさを観たいならこの作品をお勧めします。

お嬢さん乾杯!(予告)

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監督: 木下惠介
出演: 原節子, 佐野周二, 佐田啓二
販売元: 松竹
価格: 3024円
発売日: 2012/8/29
時間: 89分
製作年・製作国: 1949年 日本

御木茂則(映画キャメラマン)
1969年生まれ 日本映画学校卒業
映画の撮影の仕事を20年以上続けています。仕事を続けながら沢山の映画を観てきました。数えたことはないですが、多分4000本以上の映画を観ているはずです。どの映画も愛おしい作品ばかりであり、私が仕事を続けていくうえで大切なことを教えてきてくれました。この連載は愛すべき映画への感謝の思いで始めます。
「再会したい映画」というタイトルはベタですが、また映画館のスクリーンでこの映画に再会したい!という願いをこめています。読んだ方が紹介した映画に興味を持ってもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします。
撮影担当作品
『部屋/THE ROOM』(園子温 1993年)
『バッハの肖像 LFJより』(筒井武文 2010年)
『フレーフレー山田 忘れないための映像記録』(監督/撮影・2011年)
『希望の国』(園子温 2012年)
『ヒキコ 降臨』(吉川久岳 2014年)
『三人吉三』(串田和美 大形美佑葵 2015年)
撮影補
『奈緒子』(古厩智之 2008年)
『生きてるものはいないのか』(石井岳龍 2012年)
照明担当作品(撮影 芦澤明子)
『孤独な惑星』(筒井武文 2011年)
『夜が終わる場所』(宮崎大祐 2011年)
『受難』(吉田良子 2013年)
『滝を見にいく』(沖田修一 2014年)

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