第2回 『7500』

 前回に、太西洋上を飛んでいた飛行機から、乗員乗客が姿を消すという「レフト・ビハインド」を紹介したが、今回の作品はLA発東京行きの飛行機内で、怪奇現象が起きるという「7500」。
7500とはフライトナンバーのことで、「呪怨」シリーズの清水崇監督がアメリカで撮った、三作目に当たる(全編をアメリカで撮ったのはこれが初めて)。

 飛行機映画の定石通り、空港の搭乗受付のシーンから始まり、乗員・乗客の名前とキャラクターが観客に紹介される。
乗り込んだ乗客は新婚夫婦とその友人夫婦、全身にタトゥーのある女、怪しげな木箱を機内に持ち込んだ見るからに怪しげな男、妊娠したのではないかと不安になっている若い女、盗品を売りさばきながらアジア横断旅行をしようともくろむ若い男、救急医療隊員……とさまざま。
そしてパイロットはCAの一人と不倫していると、これまたお定まりの設定だ。

画像1: © 2014 CBS Films Inc. All Rights Reserved

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東京へ向かう太平洋上で、最初の異常事が勃発する。
乱気流に遭遇して飛行機は大揺れし、機内はパニック状態に。それが収まったかと思うと、今度はサラリーマン風の男が「息ができない」と言い出し、苦悶の表情をうかべながら、あっけなく死亡した。

とりあえず、ファースト・クラスの乗客を下に移して、ファースト・クラスに遺体を安置したのだが、その遺体が消えたり、酸素マスクや機器が故障したりと、怪異な出来事が続き、最後には死が飛行機を支配することになる。

画像2: © 2014 CBS Films Inc. All Rights Reserved

© 2014 CBS Films Inc. All Rights Reserved

 清水監督のハリウッドの二作品、「The Juon/ 呪怨」(04)や「呪怨 パンデミック」(06)と同じように、限られた場所を主舞台に、脱出不可能な状況下で、人々はあわて、おびえ、そして必死に危機から逃れようとあがく。

画像3: © 2014 CBS Films Inc. All Rights Reserved

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脚本を書いたのはクレイグ・ローゼンバーグで、ピアース・ブロスナン主演のコメディ・アクション「ダイヤモンド・イン・パラダイス」(04)が、日本で劇場公開されている。

狭い機内といっても、コックピット、客席、トイレ、ギャレー、機内下部の貨物室……と場所を変えて、怪奇現象を展開するので、見る者をあきさせない。

問題は“呪怨・イン・エアプレーン”的な、東洋哲学風の死霊観をストーリーに持ち込み、それが十分に消化されているとは言いがたく、ために観客は混乱し、映画を見ながら、いろいろと考えてしまうところ。それが、全米公開が予定されていた当初の2012年8月31日から、二年間も遅れた理由の一つかもしれない。

 最後になったが、一番印象に残っているのは、乗客の一人がイン・フライト・ムービーで、TVシリーズ「トワイライトゾーン」の一話である「2万フィートの戦慄」を見ていること。
リチャード・マシスンの短編を基にした、同シリーズ屈指のエピソードだ。
「スター・トレック」のカーク艦長を演じたウィリアム・シャトナー扮する乗客が、飛行機の翼にグレムリンがいるのを見て騒ぎ出すが、他の人には見えないという内容で、83年の劇場版「トワイライトゾーン/超次元の体験」では、ジョン・リスゴーが演じていた。

ほんの一瞬の描写なので、見逃す可能性大だが、本作の内容にマッチした挿入といえよう。
-cinefil

映画『7500』(ナナゴーゼロゼロ)予告編

youtu.be

清水崇監督、クレイグ・ローゼンバーグ脚本。
驚愕のフライトパニックホラー、誕生。
ロサンゼルス発 羽田行 フライト7500便で何が起こったのか?

『7500』(ナナゴーゼロゼロ)

7月25日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー

提供:カルチュア・パブリッシャーズ   
配給:プレシディオ

北島明弘

長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

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