タイトルは「誰も知らない建築のはなし」ですが、これは「建築家」のはなしです。
建築家という存在がなんなのか、考えさせられます。建築裏話的にも聞こえますが、実際は建築家の良心を聞くことが出来る貴重なドキュメンタリーです。

欧米勢は相変わらずショーマンシップたっぷりで、ピーター・アイゼンマンも20数年前に僕が在籍していたAAスクールで、レクチャーを聞いたときのまま、レム・コールハースの皮肉っぽいしゃべり方もいつも通り。しかも皆元気で若々しい。

映画は30年前にアメリカで開催されたP3会議の話から始まります。

その後日本を舞台として、バブル期の様子が映され、それを見ると、磯崎新さんがいかに日本の建築界をつくってきたかを、振り返ることが出来ます。様々なプロジェクトでコミッショナーとしてキューレーションした日本勢だけでなく、海外含めた建築家の全てが、その後活躍している様は、見事というしかないです。

もちろんその中の筆頭が、今話題の新国立競技場コンペを制した、ザハ・ハディドだったりします。彼女の最初期の実作、1990年花博でのフォリーも画面に登場します。

画像1: 建築家から見た、映画「誰も知らない建築(家)のはなし」-cinefil.asia

実際はかなりの数の建築の映像が出てくるのですが、人物のインパクトが強くてあまり印象に残りませんでした。ほとんどが遺物のようで、錆びているフランク・ゲーリーのFishdance(神戸)は新築時に見ているため、あまりの傷みようには思わず、「あ〜〜」とため息が出てしまいました。

建築家は皆、「作品」をつくりたいと考えています。
しかし一方で、個人の欲求を満たすだけでなく社会的に役に立つ建築をつくりたいと考えています。その二つが相容れないことがよくあるのです。

伊東豊雄さんは、海外では建築家は社会を批判しながら社会と共存出来ているけど、日本はどうもそうではない、と語っています。伊東豊雄さんの話は全体に切実で、とても真面目な方であることもよく分かります。

東日本大震災を機につくられた「みんなの家」の中で、最初の伊東豊雄さんのものは正に住民のためのみんなの家でしたが、それ以降の他の建築家のものは、どんどんのエゴが見えるものとなっていきました。
「作品」への呪縛でしょうか。

「伊東豊雄の子ども相手の活動や安藤忠雄の植樹とかは焦燥感のハケ口だ」

とレム・コールハースが語るのは印象的です。
彼はそういう想いなく建築をつくり続けているのでしょう。

そういえば、ヨーロッパではルネッサンス期には建築家の地位が確立していたようですが、日本では明治以降輸入された出来た職能です。未だに馴染んでいないともいえます。
社会の中でも位置付けが不明で、コミュニティとの繋がりも必ずしも強くありません。

イデオロギーがあるのが建築家で、ただ経済活動の一環として業務をこなすというだけでは建築家足り得ない、以前はそう教え込まれてきました。
批判的な精神でものをつくるべきで、既存の社会に迎合するようではいけない…。

画像2: 建築家から見た、映画「誰も知らない建築(家)のはなし」-cinefil.asia

この映画はドキュメンタリーですが、石山友美監督による編集の妙で、実際には顔を突き合わせてやりとりしていない出演者達が、あたかも同じ空間で意見を交わし合っているかのようなシーンとなっています。
ほとんどのシーンで出演者は皆、座っていてあまり動かず話しているだけですが、観客を飽きさせません。

また、お互いの悪口を言っているようで、実はよく知っている悪友みたいなもので議論し合える仲間達なのです。そんな時代でした。
今はどうなのでしょう。

インタビュアーが上手いのか、特に日本人出演者は皆、素直に話しているように思います。
あと、レム・コールハースのシーンでは、常に彼の後ろに柱と枓栱のモデルが映っているのが何を意味しているのか…とか深読みしてしまいます。

さて日本では社会と建築、社会と建築家との関わりは、経済状況によって決まってしまうのでしょうか。

磯崎新さんは、建築家なしで建築が出来る時代に建築家は何をするのか、自分は都市に興味がある、と語っています。
「建築」から「都市」へ、確かにまちづくりや都市に関心を持つ建築家は、増えている気がします。

この映画は今、建築を学んでいる学生に観てもらいたい一方、建築関係でない人達にこそ観てもらいたいです。
伊東豊雄さんの言葉は、多くの建築家の想いを代弁しています。

そして、これをきかっけに建築家と市民が語り合う場が多様なかたちで出来ていくことを望みます。

  齋藤 繁一 (建築家)

映画『だれも知らない建築のはなし』予告編

youtu.be

監督:石山友美
出演:安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、レム・コールハース、ピーター・アイゼンマン、チャールズ・ジェンクス、中村敏男、二川由夫
インタビュー:中谷礼仁、太田佳代子、石山友美
原題:Inside Architecture -A Challenge to Japanese society
製作:第14回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館製作委員会、P(h)ony Pictures
配給:P(h)only Pictures
配給協力・宣伝:プレイタイム
2015年/カラー/73 分/ドキュメンタリー

公式サイト:http://ia-document.com
公式Facebook:https://www.facebook.com/kenchikuno.hanashi
2015年5月23日よりシアター・イメージフォーラム他で全国順次公開。

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